6 子猫を巡る攻防(下)
その日、かさねの母親の「ママ友」とやらが、我が家に茶を飲みにきた。そのときデコピンはお仕置きとしてキャットケージに入れられていた。大人しくしていればこの上なくかわいいのだ、デコピンは。
いろいろ愚痴やら小学校の先生の悪口やらで茶飲み会は大変盛り上がっていた。わしは縁側でぼーっと庭を眺めていた。
「新しい猫、飼い始めたの?」
ママ友はキャットケージを見た。
「そうなのよ、チビ太はもう20歳になるから……でもこの子、デコピンって言うんだけど、とにかくイタズラがひどくて困ってるの」
かさねの母がため息をつくも、ママ友の目はデコピンから動かない。
「えっ……この子、うちの死んだゴジラにそっくり……!」
ゴジラ。猫につける名前ではないがわしは長生きしているので知っている。ゴジラというあだ名の野球選手がちょっと前まで活躍していた。そこからとった名前なのではなかろうか。
「えっ、ゴジラくん死んじゃったの!?」
「そうなのよー。家族全員みーんなしょんぼりしちゃって。18歳だから大往生だし悲しい顔をしない、って毎日頑張ってるんだけど……家族全員、縁があればまた猫飼いたいって言ってて、でもここ田舎でしょ、譲渡センターとかないじゃない」
「じゃあ、家族と相談してからだけど……よかったらデコピン、もらってくれない?」
かさねの母親はずっとデコピンの散らかした猫砂とかカリカリとか剥がした壁紙の掃除に追われていたからそう思うのも仕方あるまい。わしもそれでいいような気がしていた。
そういうわけでその日、家族会議が開催された。やはりこれがねこねこネットワークの思し召しであったらしく、出来レースでデコピンはよその家に行くことになった。
なんだかホッとしたのだった。
デコピンが貰われていく日の朝、かさねは寂しいような嬉しいような複雑な顔をしていた。優もおなじだ。ただし優はデコピンを雑に扱ったせいで腕も脚もズタボロになって、流血するまで噛まれたせいで高校にきた献血車で献血し損ね(つまりサボり損ね)ているので、ちょっと安心した顔であった。
かさねの同級生の、デコピンと同じくらい元気のよさそうな、というか凶暴そうな男の子が、デコピンを抱え上げた。デコピンはしっぽをパタパタさせている。
「ばいばい、デコピン」
「いつでも見にくるといいぞ!」
「うん……そのうちね」
どうやらかさねはこの男の子が苦手らしい。
「デコピン、元気でな」
「ミャーオ」
デコピンは一言そう鳴いて、車の中の真新しいクレートに入れられた。車からは歳をとった猫の匂いがした。おそらくこれがゴジラの匂いであろう。
ゴジラが死んでしまったときに猫の設備はほとんど始末したらしく、デコピンのトイレや食器も譲り渡した。その代わりに、デコピンの新しい家族は大量のジャガイモとサツマイモを置いていった。お前は戦時中の着物か(朝ドラで履修した)。ちなみにわし用にエナジーちゅーるも置いていった。今から楽しみだ。
というわけで平和が戻ってきた。ただ、ちょっとだけ、寂しかった。
しかしねこねこネットワークはいつこの家に子猫を送り込んでくるのだろうか。わしが生きているうちならよいのだが……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます