ロリコンエロ親父(法務部長)から、ヘソ曲がりのおヘソを探されることになった

Bu-cha

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何が楽しくて、こんなことをしているわけか・・・




目の前に積まれた履歴者を1枚ずつパッと見て、内容もろくに読まず近くに出来上がった1つの山に重ねていく。




何も楽しくないこの作業に嫌気が差す。




でも、他からは内定を貰えなかっただろうし・・・




この履歴書も別な人が書類選考をして通過しなかった子達のだし・・・




そう思いながら、




そう思いながら、




今日も大量にある新卒応募の履歴書を見ていく・・・。




また1枚、パッと見て・・・




パッと見て・・・




その1枚の履歴書だけを、デスクの上の違うスペースに置いた。




“時間を掛けていい”

と言われていて・・・。

パッと終わらせたくても、その大量にある履歴書に当然だけど時間が掛かる。




時代の流れに逆行しているうちの会社は、今でも履歴書は手書きでの提出。

同業他社では、エントリーシートと動画提出での選考フローな所もあるらしい。




そして、気が付いたら・・・人事部の部屋の中には誰もいなくなっていた。

時計を見たら、お昼休み開始時間から20分も経っている。




鞄からタッパーを取り出し、醤油をつけた海苔だけがのった白米を、赤いお箸で食べていく。




食べながらも、また履歴書を1枚手に取った。





今年、新卒で入社したばかり。

6月からエントリーが始まったうちの会社は、新卒採用は始まったばかり。






新卒採用の担当でもある自分・・・加瀬樹里(じゅり)は、今日もパッと履歴書を見る作業が、樹里の仕事。





「樹里ちゃん、今日もお昼休んでないの!?」




お昼休憩から戻ってきた新卒採用担当の女の先輩に、今日も心配される。




「9時間続けて仕事するくらい、樹里は何も疲れないけど?」




「毎日凄いよね~・・・若さなのかな?

・・・そんなことはないや、私が新卒の頃は4時間くらいお昼休憩欲しかったからな~。」




女の先輩が面白そうに笑い、可愛いネックレスのハート部分を真っ直ぐにしながら樹里を見る。

今年の誕生日に、彼氏から貰ったらしい。

よくこの仕草をしているからか、樹里まで気になるようになった。




「やっぱり・・・先輩の私も怒られちゃうから・・・今日も1時間くらいブラブラ休憩してきて?」




毎回これを言われてしまうけど、樹里は本当に休憩なんていらない。

それでも・・・この女の先輩は嫌ではない人だから・・・どっちかというと結構可愛い先輩だし、今日も言うことは聞きたいけど・・・。




でも、でも、やっぱり休憩なんて必要ないけど・・・。




もう1度心の中でそう思いながら、手首につけているお姉ちゃんから貰った、赤いリボンの2つのヘアゴムを見る。




お姉ちゃんに嫌われるのは嫌なので、“ワガママ”を我慢して、今日も椅子から立ち上がった。




広くてお洒落な社内をブラブラしていると、社員のみんなが樹里をチラチラと見てくる。




樹里が可愛いのは勿論だけど・・・それ以上にこの格好が目立つから。




自分の姿を少し見下ろす・・・。

今日は、ダボっとしたTシャツに、ダボっとした膝下のウェアを履いている。

そこにランニングシューズを履いていて。




人事部の部屋の中は冷房が効いていたけど、社内全体はそこまで涼しくなくて・・・




暑いからTシャツの半袖部分を肩まで捲り上げ、その格好のままブラブラと歩く。




その時・・・




横の部屋・・・法務部の部屋から丁度人が出て来て・・・




その人も樹里を見て驚いている。




それを無視して、樹里はまたブラブラと歩きだす・・・。









その、時・・・










「なんか、見たことあるな・・・」








さっきの人が樹里の隣に並び、話し掛けてきた。

ジロジロと樹里の頭から下に視線を移し、また上に向かってくる・・・。








それを無視しながら、樹里は歩き続ける。








「うちの商品を着てるからでしょ?」




「それもあるが・・・。

なんか、見たことあるな?」




「それは気のせい。」




「なんで?」







樹里は歩きながら、その人をチラリと見上げる。







「こんなに可愛い樹里を見て、“なんか見たことある”で済むわけないでしょ?」






その人は驚いた顔をした後、嫌気が差すくらい整った顔・・・それを崩して笑いだした。





「確かにな!

ここまではなかなかいないな!」




「なかなかじゃないでしょ?」




「俺、結構見慣れてるから。

うちの会社にもいるだろ?」




「夏生(なつき)くらいしか、いない。」




「あいつな~・・・良い女だよな!」





うちの会社の広報部、イベントだけでなく雑誌やポスター、CMでも夏生はよく出ている。

凄い可愛くて、樹里から猛アプローチをしてから仲良くしてもらっている。





その夏生が仕事で着た服を、よく樹里にお下がりとしてくれる。

大好きな夏生のことを“良い女”と言われ、気分が良くなる。





「これも夏生が撮影で着たやつ貰ったの。

樹里も背が高いけど、夏生の方が高いし・・・ダボっとするけど、それは私服でもそうだし。」





立ち止まり、夏生から貰ったウェアとランニングシューズをこの人に見せてあげた。





そしたら、この人がまた少し見てから・・・





ゆっくりと手を伸ばしてきて・・・





樹里の肩に捲っていた半袖部分を、下ろした・・・。





「なに・・・?」




「社内で肌見せすぎだろ!」




「暑いし。」




「それでもそんな露出すんなって!」





「肩少し出てるくらいで、露出とか・・・」




少し樹里のツボに入ったので、笑いながら目の前に立つこの人を見上げる。





身長が高くて・・・175センチの夏生より高い。

お兄ちゃんくらい、180センチ以上ありそう。

漆黒の髪の毛を寸分の乱れなくセットして、嫌気が差すくらいの整った顔をしている。

なんというか・・・1つも、1箇所も、崩れたりオシイ所もない。





よく引き締まった身体に、たぶん高いスーツを着ている。

革靴もピッカピカで・・・





でも、その姿を嫌味に感じることもなく。





それは、この人にそれが良い意味で合っているからだと思う。





そんな男の人が、嫌味なくらい整った顔をまた崩し、笑って・・・





今度は・・・次は、樹里の顔に手を伸ばしてきた・・・





ビックリしたけど、無駄のない動きと自然過ぎるその動きに、何も反応できず・・・。






動けずにいると・・・






この男の人が、親指で・・・樹里の唇に少し触れ・・・






触れ・・・







触れたかと思ったら・・・








「痛い!!!・・・痛いって!!!」








強い力で唇をグリグリとしてきた・・・。








「海苔、ついてるぞ!?」








笑いながらそう言った後・・・








笑いながらも少し真剣な顔をして・・・








「お子ちゃまだな。」








と・・・。








そんな嫌味を言われ、樹里もこの男の人を少し良く見る・・・







そして、言ってあげた・・・










「そっちは、ロリコンエロ親父じゃん。」








と・・・。








“ロリコンエロ親父”

そうにしか見えなかったので、そう言ってあげた。





そしたら、目の前にいるロリコンエロ親父が驚いた顔をして・・・また、大笑いをした。





「“ロリコン”とも“エロ”とも“親父”とも、他の女から言われたことねーよ!」




「その女に、眼科行くように言えば?」




「会えたら言っておく!」





そう答えてから、スーツのジャケットの中から何かを取り出し・・・





何かを渡してきたので、反射的に手を出した。





「頑張りすぎるなよ!お子ちゃま!」





ロリコンエロ親父がそう言って、社内を歩いて行った・・・。






その後ろ姿を少し見てから、手に乗せられた物を見る。






それは・・・






「キャラメル・・・。」






どうするか悩んだけど、ありがたくいただくことにする。

キャラメルなんて贅沢な物は滅多に買えないし。






お母さんから“ヘソ曲がり”とよく言われるけど、それは家族の中だけで。

外ではそこまで“ヘソ曲がり”でもないと思う・・・自分では。






口の中に入ったキャラメルを舌で転がす。

噛んでしまうのは勿体ないから。

少しでも長くキャラメルが口の中にあるように・・・。





樹里が幼稚園の年長になる直前でお父さんが死んでしまってから、うちはずっと貧乏で。





お兄ちゃんが一生懸命働いて、お母さんも一生懸命働いて、奨学金も借りず樹里を大学に通わせてくれた。

希望通りの大学ではなかったけど・・・。





2人のお陰で、普通の高校を卒業した新卒では入れないような、大きな会社に入れた。





キャラメルを舐めながら、またブラブラと社内を歩く。

歩きながら、小学校3年生から続けているツインテールの髪の毛を、右手の人差し指にクルクルと巻き付けた。





スポーツ用品業界最大手の“KONDO”。

この会社は、こんなふざけた樹里でも何も言われない・・・良い意味でマトモではない、そんな会社だった。

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