第4話 仲間①

 それからまた汚れ一つ無い純白の回廊を踏みしめ、五分ほど経てば遂に違法競売取締部・捜査一課、第一班室まで辿り着いた。


 OPは全五課で構成されており、そこからさらに第一班から第二十五班と八人制のグループに分かれている。ローゼ区内を管轄としている一課は第一班から第五班が所属し、各々のオフィスがあてがわれていた。

 一番右端にある第一班室のドア。その向こうには、これからケルンの人生に大きな影響を与えるであろう仲間たちがいる。


 ケルンの身に改めて緊張が走るなか、ラシーヌはドアノブを捻った。


「皆、ただいまー。新人君を連れてきたよ」


 まるで自宅に帰ってきたかのように、ラシーヌが明朗な声音で告げる。


 思っていたよりも室内は広々としており、部屋の中央には向かい合わせになったデスクが四台ずつ二列に並んでいた。左奥は応接間と思しきソファやミニテーブル、右奥にはコーヒーメーカーなどが置かれた休憩スペースがあった。


「お、帰ってきた。おかえりなさーい」


 すると、右列の一番手前のデスクにいた男性が第一声をあげた。


 ゆるくパーマがかかった金髪をセンター分けにしており、洒落た眼鏡をかけている。伊達眼鏡なのか、度入りの眼鏡なのか判別がつかないが、何にせよ警察官にしては少々派手に見える男性だった。歳はラシーヌと同じ三十代くらいか。


「ツヴァイク。みんなは?」

「僕とロス君以外は外出てますよ。今、昼休憩中なんで」

「ああ、そっか。じゃあ先に二人だけでも紹介しとこうか」


 ラシーヌはケルンに向き直って、今いるメンバーの名前を明かしていく。


「彼はツヴァイク・シュタイナー。第一班の副班長で、階級は警部。絶賛彼女募集中の三十三歳独身」

「ちょっと、後半なんつー紹介の仕方してるんですか。勝手に年齢まで公表しちゃって」

「あれ、嫌だった?」

「いいや。モーマンタイですよ」


 親指を立てて、真っ白な歯を覗かせるツヴァイク。どうやら彼は第一班のなかでもムードメーカー的存在のようだ。

 ツヴァイクはケルンを見るや否や「初めまして、ケルン君」と自己紹介を始める。


「ご紹介に預かりました、五年間彼女ナシの社畜ことツヴァイク・シュタイナーです。こう見えて一応、ラシーヌさんの右腕的存在なんだよ。よろしく!」

「ケルン・アイスフェルトです。よろしくお願いします」


 ケルンが深々と首を垂れると、ツヴァイクはうんうんと満悦そうに頷く。


「ツヴァイクは第一班のなかでもまだクセがそんなに強くない分類だね。社畜って言ってる割にはいつも元気でうるさいくらいだし。まあ、もう一人うるさい人がいるんだけど、その人よりかはマシだから」

「褒めてるんだか、馬鹿にしてるんだか」

「褒めてるに決まってるじゃん」


 ラシーヌは呵々かかと笑いながらあしらった後、もう一人のメンバーに視線を注ぐ。


「で、ツヴァイクの隣に座ってパソコンと睨めっこしてるのは、ロストーク・コーガン巡査部長。ネット闇オークションの取締を担当してる、我が班自慢の凄腕ハッカーだよ」


 こちらもまた、警察官にしては珍しい変わった風貌をした人物だった。

 黒と白のツートンカラーの髪にリングピアス。長い前髪から覗く碧眼は、目元にあるクマのせいか生来の輝きを失っているようだった。


「ロス君。ケルン君にご挨拶」


 ツヴァイクに促され、ロストークはおもむろに目線を持ち上げてケルンを捉える。

 童顔だからか、自分よりも年下のように感じられた。だが、見た目に反して冷然かつ落ち着いた雰囲気を纏っており、ケルンの気も自然と引き締まる。


「……どうも」


 ぼそりと小さな声を発したロストークに、ケルンも改めて名乗ってから会釈を返した。その直後、バンと勢いよくドアが開かれる音が自身の背を打つ。

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