第6話 喪失

☆八乙女四葉(やおとめよつば)サイド☆


何様のつもりか。

思いながら私は怒りながらラノベを選ぶ。

せめてもの先輩の前ではこんな事になりたくないが。

だけどあの女は浮気したとされているから。


「先輩。今日は有難う御座いました」

「...ああ。...こんな形になってすまないな」

「...いえ。先輩が悪い訳じゃ無いので」

「ああ。...ラノベ。楽しんでな」

「はい。先輩。有難う御座います」


夕暮れの青空の下で私は先輩に頭を下げてからそのまま帰宅する為に方向転換した。

そして歩き始めてから数分経った時。

目の前の風景に違和感を感じた。

そこに人が隠れている。

そして出て来た。


「...貴方は...さっきの」

「...そうだね。浮気女にされている女だよ」

「...何の用事ですか。帰ります」

「...八乙女四葉さん。これだけは言わせてほしい。私は...浮気した訳じゃない。あくまでそう見えただけ。...私は何もしてない」

「...浮気をしてないってどういう事ですか」

「私は(義兄を彼氏と誤認させられたんだ)と言えるかもしれないね」


ますます回りくどい事を言う。

思いながら私は「何ですかそれ」と聞いてみる。

すると浮気女は少しだけ息を吸い込んだ。

それから私を真っ直ぐに見てくる。


「...私は実は記憶があまり無いの」

「記憶喪失という事ですか?笑えますね。そんな追い詰められた人が放つ様なジョークを私が受けるとでも」

「記憶が無いまま私は義兄の手で踊らされていた」

「...?」

「...強い精神ダメージを受けて記憶が無くなっているらしくてね」

「...じゃあまさかと思いますけどその義兄の人から何か受けたから記憶が?まさにクソッタレな回答ですね。浮気女に相応しいかと」


そう答えながら「じゃあ帰ります」と踵を返す。

大周りになるが仕方が無い。

コイツが居る道を行きたくない。

思いながら私は帰っていると「待って。お願い。話だけでも聞いて」と声がした。


「...あのですね。私は心底激高しているのが分かりますか?貴方の行動が...」


すると何かの封筒を取り出してきた浮気女。

私はそれを受け取る。

それは...病院の診断書だった。

そこにはこう書かれている。


(心理面における記憶喪失)


とだ。

私は医者ではない。

だからこそこれは答えようが無いがまさか。


私は顔を上げてから聞いてみる。

「先輩の好きなものとか知ってますか」と。

すると「私は彼が私の恋人である事以外は何も知らない」と答える浮気女。

「家族の全ても忘れたんですか」と聞いてみる。


「...初めの方は全部忘れているからとそう大学病院からは診断が下った」

「...だけど私、これでも信頼出来無いんですけど」

「...信じるか信じないかは貴方次第だよ。...だけど私はあくまで義兄に洗脳された。ただそれだけ。あの人とそのまま処女膜も奪われているんだと思う。多分だけど」

「...それってマジなレイプですよね」

「...そうだね。だけど全て記憶が無いから警察もその点は動けないみたいだけど」


そう言いながら戻した診断書を直す浮気女。

「勘違いだけはしないでほしいけど私はあくまで何もしてない。そこだけは誤解しないで」と言ってからそのまま去る浮気女。

私はその姿を見ながら1キロ先にある実家に帰った。


☆野木山凜花(のぎやまりんか)サイド☆


記憶が無いという事は嘘ではない。

これだけは周りに知ってほしい。

そもそも何故私に記憶が無いのかも分からない。

だけど1つだけ言えるのは。

義兄に洗脳された、となっている。


「...」


私は恐らくファーストキスも全ての経験も全部あの男に奪われている。

まあ生きた心地はしない。

正直、竜星と関係を戻したいとかは今は無くなってきたが私はあくまで誤解されるのだけは勘弁してほしいと思う。

私は好き好んでこうなっている訳では無いという事を。


どういう精神のダメージでこうなったのかは知らないが。

私が元に戻るには相当な時間が必要であろう。

因みに義兄だが...彼は色々な罪で捕まった。

何故捕まったかというとこの前のコンビニでの窃盗であった。

それから芋づる式にこうなった。


「...ただいま」

「お帰り。凜花」


アパートに帰ると母親の野木山菊(のぎやまきく)が顔を見せた。

50代の主婦。

それから笑みを浮かべてくる。

私はその姿を真顔のまま見てから鞄を置く。

そして私は教科書を片付ける。


「...凜花。...今日の夕ご飯ね。卵とそぼろの二色丼」

「...そう」

「...大丈夫?」

「...うん。まあ一応」


そう答えながら私は「色々な人に浮気したってされている」と言う。

すると母親は「そう」と深刻そうな顔をする。

疲れたものだ。


「...ねえ。凜花」

「何。お母さん」

「...その。竜星君にも話したの」

「竜星には話した。だけど聞く耳を持たない」

「...ごめんなさいね。...私のせいね」


傍で泣き始める母親。

因みに義兄の父親だが深刻さ故か数日前に車でふ頭に行ってから水浸自殺した。

遺書にはこう書かれていた。


私達に向けて(すまなかった)とだ。

これにはまたショックを受けて私の気持ちがリセットしてしまった。

記憶喪失がまた酷くなったのだ。


「...こんな国に産んでごめんなさい」

「...お母さん。責めても仕方が無い。そもそももう起こった事だし」

「...私があの人を選ばなければ...」

「...」


記憶喪失、自殺、犯罪。

そして...現在。

私はどうあるべきか。

それを考えたい感じだがどうなのか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る