プロローグ

 こぼれ落ちるようなやわらかな光を受け取る草木の中で、くしゃりと小さな足音がする。

 二人の、男がいた。

 男の一人はこしほどまである茶色い長いかみの持ち主で、やさしげなふうぼうをしていた。

 対してもう一人は燃えるようなあかがみの、目つきが悪い青年だ。

「なんの用だ」と赤髪の青年はり返り、もう一人の男をにらむ。いや、睨んでいるように見えただけで、実はただそちらに目を向けただけなのかもしれない。そんなふうに損をしがちな人相をした青年だった。

「少しきみにお願いごとがあって来たんだよ。……どうか、彼を守ってほしいんだ」

 睨まれた側の髪の長い男はというと、そんなことは一つも気にすることなくころりと微笑ほほえむものだから、赤髪の青年はさらにいらった様子で、どういうことかといくつかの質問を相手の男に重ねた。はらはら、さらさらと木々の葉が落ち、降り積もっていく。

 質問の一つひとつに髪の長い男が答えていくうちに、赤髪の青年の顔はくもっていった。

 最後に一つ、髪の長い男が小さなぬのぶくろたもとから取り出し告げた。

「これから、王国は大きくれる。この国の貴族たちも一枚岩ではないからね。だから万一のためにこのを残しておきたいんだ」

「……それがお前のさいごの望みだというのなら受け取ろう。しかし、俺があいつを守るとは限らないぞ。俺は貴族たちにはかかわりたくはない」

「受け取ってくれるだけでも、もちろん構わないさ」

 髪の長い男は口元をほころばせながらうなずいた。

 小さな布袋を赤髪の青年の手のひらの上にのせると、しゃらりと中身がこすれるような音がひびく。

「……これは、希望の種だからね」

 赤髪の青年が去り、ただの一人きりとなったときに、髪の長い男はぽつりと小さくつぶやいた。これから先の結果は、だれにもわからない。

 むなしさはある。悲しみもある。けれどもきっと、だいじようだろう、と彼は信じている。

 そして、ゆっくりとひとみを閉じていのる。


 どうか幸せな結果が待ち受けていますように。

 これからおとずれる冬が、つらく、険しいものとなりませんように。

 暖かな春が、やってきますようにと。

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