シーンでショートショート
佐倉きつめ
告白
告白
佐倉 きつめ
人生最大の決戦があるとしたら多分それは一回じゃなくて。でもこの瞬間の私にとってはこれが「人生最大」なのかもしれない。
体育館の裏に呼び出す何て、よく漫画である様なベタなことをするほどの夢見る少女にはなりたくないと思っていた。がしかし、この学校の人気のない場所と言えばそこしかなくここ以外の選択肢を見いだせなかった。
もうすでに、息が詰まる。何だろう、気持ち悪くてドクドクする、胃の中のものが沸々と落ち着かない感じ。貧血気味なかんじ。
なんども口の中に残ってもいない息をのんだ。
こういうときは無性に口を開きたくなって、何かとりあえず言いたくなる。
「やばいやばいやばい」
九十パーセントほぼ快晴の空を仰いで言った。
やばいしか出てこない。
違う、やばいとかそういう感情で心とか頭を埋め尽くして緊張の吐き気と、これから言う言葉への期待のない返事をできるだけ考えないようにしていた。
でも苦しくて怖いんだか、溢れる気持ちを聞いて欲しくて仕方ないのか。
どっちも絡まり合って分からなかった。多分半々くらい。
勝率は二十パーセント。
体育館の中間ドアの階段二段目に腰掛ける。初夏の日差しで熱されたタイルは、スカートから少々出た生肌には熱すぎた。
でも我慢できるくらい。
黒光りした二年間履きつぶしたローファーは光の反射で、ついた砂を光らせた。右手でその砂を意味もなく払った。
と・・・
砂利を踏みしめる音が聞こえて震える。気付かないふりをしてうつむいたままいた。
少しでも顔が見えないように。少しでも勝率を上げられるように。
珍しく下ろしたロングの黒髪が垂れて私の顔を隠す。
慣れないアイロンを使って一生懸命に伸ばした髪は外から見たら多分少しばかり綺麗に見られるはず。じゃなくて、綺麗に見られたらいいなって感じ。
「渡邊?・・・」
はい。渡辺です私。
ドキドキする声が。心臓が、体が跳ねる。
赤くなるなってどれだけ願ってもあかくなる頬を殴りたい。
どれだけチューニングしても崩れちゃう声帯も嫌
「ごめん、忙しいのに呼び出しちゃって」
今日初めてみた。ノーセットでもととのう自然な短髪。黒髪。センターに分けた前髪も、私より10センチくらい高い身長も。優しくて低い声も、
「全然いいよ」
って、くしゃって笑う顔も。
大好き。
みんなに優しくて、それで、それから。
「ありがとう」
ゆっくりと右を向いて、頑張って微笑む。
言いたいことが溢れるけど全部心の中に散らばるだけなの。
何にもいえない。
あなたの前じゃいえない。
大好きっていえない。
もっとおしとやかに、かわいくて、そうやって接したいのにいつもできなくて後悔するの。
ゆっくり立ち上がって三段降りて地面と靴裏ごしにタッチする。
砂利を踏みしめる感覚。君との距離が10メートル切る位になった。少し遠いだろうか。
少し詰める。下がられないか怖い。苦しくて、賭けをしてるみたいだ。
恋の賭けなんてできないから、最後の最後に距離の賭けをする。
十分に吸えない息を吸う。少し高いあなたの顔を見て
「結城くん。あの」
好きです。大好き。
「うん?」
少しくびをかしげる仕草。相応の学ラン。
セーラー服の裾を思いっきり握る癖。きっとしわになるだろう。目はそらさない。
違うよ、もうそらせないの。
体が魅せられたように固まって動かないの。
大好き。
やばい沈黙。長過ぎ、めんどくさいと思われちゃうよね、早く言わなきゃ
焦って絞り出したのは
「まえ、同じ委員会だったときから、好き、です」
意味分からない。なんで好きなのか、いってない。
でもいま、好きって言っちゃったから。
終わっちゃった。あっけなくて、なんだか変に脱力して、
でも目をつぶって耳を塞ぎたくもなった。
それはあなたが、その手で後ろ髪を触って、困った仕草をしていたのが見えたから。
仕草の一つ一つが、沈黙の長さが、言葉が、全部が返事に繋がるように聞こえる。
だから怖くてそらしたくなる。
苦しくて、好きでいたくて、これからも、
これを言わなければ良かったなんて思いたくなくて。
でもどこかで期待していた。
一週間前にやった満月のおまじないが効くんじゃないかって、神頼みにすがるくらい中途半端な期待値でも、私の好きって値はメーター振り切ってた。だから言いたかった。
一回の好きのために、これからの好きを全部投げ出すほど好き。なんです。
結城くんが好き。
「渡邊。ありがと、おれ実はさ…」
それは、「告白?」それとも別の「コクハク」ですか。
結城くん。
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