第36話 入れるしかない


 白い薬袋から、解熱剤を取り出す。

 五個ぐらい連なっていたので、一個だけパキッと折って取り外した。

 残りのは、冷蔵庫に戻して……っと。


 ここまでは良いのだが、航太のやつ。

 本当に”コレ”を使う気か?

 飲み薬が苦手とは言っていたが、座薬を使うのは色々としんどいだろ。

 恥ずかしいし、ちょっと痛いもんな。

 

 

 ベッドに向かい、航太の様子を伺うと。

 たった数分の間に、状態が悪化してしまったようだ。


「はぁ……はぁ……」


 息づかいが更に荒くなっている。

 高熱のせいか、顔が真っ赤だし、喋るのも辛そう。

 こんな状態で座薬を、自分で入れられるのだろうか?


 一応、本人に聞いてみよう。


「航太、薬を持ってきたぞ? 自分で出来るか?」

「う~ん……む、無理……」


 参ったな。

 母親の綾さんもいないし、やっぱり俺がやるしかないのか。


  ※


 大丈夫、航太は男だ。

 俺とはただの友達、お風呂にだって一緒に入った仲。

 別に裸を見られても……。でもお尻の中は良くないような。


 そんなことを考えている間も、ベッドからうめき声が聞こえてくる。

 かなり苦しそうだ。

 これは早く座薬を入れてあげないと。


「航太、お薬を入れるから、かけ布団を取るぞ?」

「うん……」


 返事をするのも難しそうだ。

 もう何も聞かず、さっさと入れてやろう。

 かけ布団をはがすと、サテン生地のブルーパジャマが目に入る。


 なんか色っぽいな……とか、思っている場合じゃない。

 まずはズボンをゆっくり脱がしてあげる。

 そして最後は、パンツだな。


「悪いけど、パンツも下ろすからな?」

「……」


 反応が無い。

 まあ恥じらうこともないので、彼に取っては良かったのかな。

 黄色のカラーブリーフをゆっくり下ろすと……。

 そこには、小さな膨らみが確認できた。


 14歳にしては、成長が遅いな。

 毛が一本も無い。

 いかんいかん。前は関係ない、後ろに用があるんだ。


 航太を横向きに寝かせて、膝も曲げさせる。

 妹のあおいが小さい頃にやったことあるから、コツは覚えていた。

 そして、尻を俺の方へ向ける。


「あっ……」


 その小さくて綺麗な桃の形を見て、思わず声を出してしまう。

 ”入口”もピンク色で、可愛らしい。

 生唾を飲み込んでしまうほど……。


「おっさん……早くして」

「わ、悪い悪い! すぐに入れるから!」


 彼に言われるまで、見惚れてしまった。

 バカか、俺は……。


 袋から座薬を取り出し、彼の尻に近づける。

 そのままゆっくり入れようとした瞬間、航太が悲鳴を上げる。


「痛いっ!」

「え? そんなにか?」

「うん……おっさん、先っちょに”ぬるぬる”をつけてる?」

「ぬるぬる?」


 そんな表現されたら、ローションしか思いつかないぞ。

 まさか綾さん、息子にそんなものを使っているのか!?


「母ちゃんの化粧台に入っているよ。小さくて白いやつ」

「そ、そうなのか……」


 ちょっとドキドキしながら、綾さんの化粧台へ向かう。

 引き出しを開けてみると、化粧用品がたくさん並べてあった。


「えっと小さくて、白いのはと……」


 そこでようやく俺は、”ぬるぬる”の正体がわかった。

 何故なら、容器のふたに書いてあったから。

 ”ワセリン”だ。

 

 ふたを開けて、多めにワセリンをすくい取る。

 再度、座薬を手の平にのせて、先端へたっぷりとぬっておく。

 これで良いだろう……。


「航太、ぬるぬるをつけたから、もう一度やってみるぞ?」

「……うん」


 一発で終わらせた方が、彼の負担も少ない。

 だから力いっぱい人差し指を使って、座薬を中に押し込む。


「あっ! んん……」

「すまん。もう少しだ」


 指が中に入り込んでも、しばらくはそのままでいた。

 変に優しくしたら、座薬が戻ってくる可能性があるから。


 数秒後、航太が頬を赤らめて「もう入ったよ」と呟く。

 それを聞いた俺は、何も言わず。彼の衣服を着せてあげた。

 かけ布団を首元までかけようとした瞬間、航太と目が合う。


「お、おっさん……」

「ん? どうした?」

「その……ありがと」


 いつもツンツンしている航太と違って、しおらしい。

 まあ弱っているからだろうが。

 可愛く見えてしまう、俺はどうかしているのか。


「気にするなよ。早く熱が下がれば良いな」

「うん」


 

 これでひと段落……と背伸びをしたところで、”あの子”の顔を思い出した。

 

 『彼が嫌がることをしたら、警察に通報しますよっ!』

 

 航太のクラスメイトで、俺に学校のプリントを託した女子中学生。

 別に嫌がっていないし治療のため、仕方なく中に指を入れただけ……。

 でも今度から、あの子には気をつけた方が良いかもな。


 いろいろと勘違いされそう。

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