第34話 自分のせい
あれから、一週間が経った。
航太に元カノの未来と一緒にいたところを目撃され、復縁したと勘違いされた。
別れ際に「おっさんの好きにすれば!」と叫ばれたのが辛かったようで、俺も心にダメージを負っている。
しばらく、執筆作業もはかどらず、大好きな酒も飲まずに寝込む日々。
編集部の
身体が動いてくれない。
よっぽど、航太に嫌われたのが辛かったのか。
何日もろくに飯を食ってないので、そろそろ限界を感じ、久しぶりに外へ出ることにした。
いつものように、カーテンレールにかけている
もう外はオレンジ色の空だ。12月だから暗くなるのが早い。
タバコをくわえながら、ひとりで歩道を歩いていると。
何やら視線を感じる。
俺の方を見てぎろりと睨みつけるのは、見覚えのある制服だ。
地元の中学生?
航太だと安心できたのだが、全然違う。
セーラー服を着た、ポニーテールの女子中学生。
「あ、あのっ! 失礼ですけど、あなたは航太くんの何なんですか!?」
「え……?」
この子、初対面だってのにズバズバ言うな。
航太の名前を知っているということは……クラスメイト?
あ、だいぶ前に航太と二人で帰っていた女の子だ。
「聞いてます!? あなた、見たところ。航太くんとは家族じゃないですよね?」
「ま、まあそうだけど……」
「ひょっとして、あなたのせいじゃないですか!? 航太くんがずっと学校を休んでいるの!」
「なっ!?」
最初こそムカッときたが、彼女に言われたことは否定できない。
俺のために、また女物のコスプレを着てくれたのに。
元カノを家へ連れて込んでいたところを、見られたからな。
あいつのことを豚女とか、散々言っていたけど。いざ実際に会ってみると、動揺したのだろう。
俺が黙り込んでいると、しびれをきらしたのか。
航太の女友達が「あ~ もう!」と苛立ちを露わにする。
肩にかけていたスクールバッグから、数枚のプリントを取り出すと。
強引に俺の腹へプリントを押しつける。
「やっぱり、あなたが関係しているんですね? 私、何度か二人がアパートで話しているところを見てましたから……」
「え、本当に?」
「はい。未成年の航太くんに何をさせようとしているか、知りませんが。彼が嫌がることをしたら、警察に通報しますよっ!」
「そ、そんなっ……」
そんなことをしてないよ、と簡単には言えない。
確かにあのコスプレごっこは、俺と航太の秘密で誰にも言えない。
きっと、この女子中学生は航太に好意を寄せているのだろう。
だから俺を敵視している気がする。
ギロッと睨みをきかせて、プリントを押しつけてくるので。
とりあえず、受け取ることに。
「俺がこのプリントを、航太に渡せばいいのかい?」
「正直言って、あなたに任せるのは嫌ですけど。毎日、航太くんの家に行っても出て来てくれないので」
「航太が? 家から出て来ないのかい?」
「そうです。数日前から学校でも、ずっと上の空で。連絡も無く連日休んでいます。こんなことは今までありませんでした!」
「……」
日数的にも当てはまる。
本当に俺のせいで、航太はショックを受けているのだろうか。
※
航太のクラスメイトから受け取った、プリントの束を持ってアパートへ戻る。
彼女が言うには、最近の彼の様子がおかしかったらしい。
本当に俺のせいで航太は傷ついたのか?
もし、そうなら謝りたい。
アパートに着くと、二階から女性の声が聞こえてくる。
「航太ぁ~! ちゃんとお薬を飲むのよぉ~」
この声……母親の綾さんか?
「じゃあね、お母さん。お仕事いってくるからぁ~」
階段を上ろうとした時、ちょうど彼女と目が合う。
いつもより、綺麗な格好をしている。
ファーコートを羽織っているとはいえ、中はミニ丈のニットワンピースだ。
彼女ひとりで立っていれば、シングルマザーには見えない。
「あ、黒崎さん。こんばんわぁ~」
「ちっす……」
なんだか居心地が悪い。
まだ確定してないけど、俺のせいで航太が寝込んでいるかもしれない。
母親の綾さんに、どんな顔をすればいいんだ。
「そういえば、ごめんなさいねぇ。黒崎さん、うちの航太が迷惑をかけてません?」
「え?」
「なんか最近、あの子。おかしいんですよぉ。いきなり女の子の体操服を着て帰ってきたと思ったら……」
「!?」
ヤバい! 母親の綾さんにコスプレがバレてしまった!
どう弁解しよう。
「まあ、年頃だから……女の子の服にも興味出ますよねぇ~」
「あ……そうですね」
綾さんが天然で良かった。
「でもですよ? 私が注意しても、ムキになって着替えないんです。だから、身体を冷やして風邪を引いちゃって……」
その話を聞いた俺は、思わず綾さんの肩を強く掴む。
「綾さんっ! それって本当ですか!? あいつ、調子悪いんですか!?」
「ええ……ずっと高熱が続いてますよ」
クソっ! やっぱり俺のせいか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます