2章〜相沢先生と女子テニス部編〜

7話〜相沢先生のご褒美〜

8月初旬…


 高校は夏休みに入った。だが、社会人の私に夏休みという概念は存在しない。しかし、1ヶ月も相沢先生に会えないのは悲しいことである。みんな夏休みに入っても、英語のテストで赤点を多くのものが取っていたので、相沢先生と赤点補習をしている。社長で34歳の私は全ての科目で赤点回避、学年では必ず10位以内には入っている。そんなことはともかく、今の日本のアイドル業界は韓国のK−POPに遅れを取っていることから、我々のアイドル事務所も韓国のアイドルグループをプロデュースする計画が進められている。それで私の夏休みは潰されてしまったのだ。


その頃、


 英語の赤点補習を受けていた男子生徒諸君は謎の盛り上がりを見せていた。三日間の補習のうち、最終日の追試で100点を取ったものにはご褒美がある、と相沢先生が初日に言ったのだ。男子生徒はとにかく叫んだ。声を枯らしてもなお、叫びまくった。男子生徒諸君はとにかく妄想を膨らみに膨らませましたとさ。


相沢先生に名前で呼んでもらえるとか?


相沢先生と公園デートとか?


相沢先生と制服姿が見られるとか?


相沢先生と夜の学校を徘徊とか?


相沢先生と添い寝できるとか??


 彼らの妄想が膨らみすぎて、頬が文字通りに垂れ落ちそうになっていた時、ケンゴロウが席から立ち上がってこう言った。


「相沢先生ッ!!その、、、ご褒美ってなんですかッ!!」


「えー、それ言っちゃったらつまんないじゃん〜。」


 相沢先生がそう言うと、もちろんケンゴロウは男子生徒全員にボコボコにされた。相沢先生が人参は黄色と言ったら人参は黄色で、相沢先生が猫より犬派と言ったら、猫より犬の方が可愛くて、優れていることになるのだ。それが相沢先生と男子生徒諸君との関係性、いわば相沢先生の独裁国家なのだ。なので、相沢先生がつまらないと言ったならば、ケンゴロウはその責任を取って、ぶちのめされる義理があるのだ。


さあみんな!ボコボコにされているケンゴロウが助けを求める顔でこっちを見てくるよ!みんなはどうするかな?


正解は、周りのみんなと一緒にケンゴロウをボコすよ!


 そんな中で、男子生徒諸君は追試で100点を取るために、相沢先生の意味がわからないほどに聞き取れない英語の発音を、ずば抜けた集中力で聴き続け、猛勉強をした。


 その結果、最終日の追試で100点を取った1年生の男子生徒は栗谷以外の全員だった。なので、相沢先生は、


「ご褒美をあげられるのは4人までだからじゃんけんして〜。私はちょっと職員室行ってくるからその間に決めといてね〜。」


とみんなに言うと、なぜか参戦してくる追試32点の追試の栗谷には誰も触れることなく、世紀末のような雰囲気のクラスで、己の拳に話しかけながら、全生徒が拳を堅く握りしめた。


 すると、眼鏡をかけているインテリ系の韓国人留学生のチョー・ブンセキくんがクラスにいたじゃんけんの猛者たちを分析し始めた。日本語が少し不自由でありながらも、西赤崎高校の入試倍率18倍を突破したほどの頭脳を持つ彼ももちろん、相沢先生のために入学した。そんな彼はゴツい身体つきの男子生徒を指差しながらこう言う。


「彼はゴツい身体がチャームポイントの剛力ごうりきくんでござる。高校一年生にして、驚異のベンチプレス300kg、握力は100kgを越えるとされる彼の拳から放たれるグーは、それを反射的に避けようとする相手が、必ず両手でを出してしまうことが彼の強み、、」


 どう考えても、じゃんけんが強くない剛力くんの分析をしたチョーくんは、剛力くんの隣に立っていたヒョロヒョロの男子生徒を見ると、こう分析し始めた。


「彼はヒョロヒョロの細谷ほそやくんでござるよ。ガリガリすぎて、ヒョロヒョロなんだ。細谷くんはとにかく細くて、ガリガリで、細谷くんなんだ。あと目が数字の3みたいになるほど、目が悪いんでござる。」


 分析でもなんでもない悪口を大きな声でチョーくんは言う。次に彼が目をつけたのは我らがお馴染みの栗谷くん。


「栗谷くんはバカでよく目立っているけど、じゃんけんとなったら彼の右に出るものはいないでござる。なんと全国中学校じゃんけん大会の優勝者。中学校を卒業したことを機に、もうじゃんけんはしてないみたいだけど、彼の実力は確かでありますよ。」


それを聞いて、ドヤ顔を見せる栗谷。


 中学校卒業を機にじゃんけんしてないってどういうことだよ。日常的に友達同士でじゃんけんとか普通にやんない?お前どんだけ友達いねえのよ。っていうかこいつそもそも今じゃんけんするの資格ねえじゃん。


「これで勝っても負けてもさっ、俺たちずっと仲良くしてようぜ。」


スカした顔でケンゴロウが言った。なんかムカついたので、みんなケンゴロウをボコボコにした。


 そして、やっとじゃんけんが始まった。一年生男子生徒97人のうち、選ばれし4人は誰になるのだろうか。地獄の掛け声が始まった。どす黒い声でみんな、


「さーいしょーはグーーーー、じゃーんけーんぽおおんんん」


 ゴツい身体がチャームポイントの剛力くん、彼の拳にビビった93人の生徒がパーを出した。それに気づいた剛力くんはグーにしていた手をチョキに変え、なんとも小賢しいことをした。それを予想したかのようにチョキを出したチョーくん。目が悪いヒョロヒョロの細谷くんは剛力くんの拳も見えずに、普通にチョキを出した。栗谷は普通にパーを出して負けた。


 3人だけが勝者と思われたこのじゃんけん。しかし、先ほどボコボコにされたケンゴロウは気絶した状態で、たまたまチョキを出していたため、彼が最後の勝者となった。


 相沢先生が教室に戻ってくると、気絶したままのケンゴロウを剛力くんとチョーくんが肩を貸しながら、細谷くんも一緒にご褒美を待っていた。すると、相沢先生が、大きく元気な声でこう言う。


「じゃあ〜、ご褒美は、明日から始まる相沢先生の女子テニス部と2泊3日の夏休み合宿のお手伝い!!」


 じゃんけんに負けた男子生徒諸君からは謎の拍手が生まれ、まるで勝者の彼らを讃えるように羨ましがった。昨日の敵は今日の友と言わんばかりに、彼らは優しい言葉をかけまくった。


「お前ら、俺らの分まで楽しめよ。」


「よかったな、お前らならできると思ってたぜ。」


「いっぱい思い出話聞かせてくれよ。」


 彼らにとっては史上最も激アツな夏休みが始まろうとしていた。

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