社会人不合格体験記

@second_07

第1話 何度も思い描いた夢はすぐそこに来ていた。

横浜港に停泊しているダイヤモンドプリンセス号の中で、新型コロナウイルスが原因で死亡者が出たという報道を聞いたのは、卒業式を間近に控えた2020の2月の頃だった。


私は学生時代、横浜港が目の前のホテルのバーでアルバイトをしていた。

常連さんと大丈夫かしらねえ、と話していた。


横浜中華街は心ない人たちから差別の対象とされ、心なしかいつもより人通りが少ないことを通勤中感じていた。

私が働いていたホテルからは死者が出たダイヤモンドプリンセスが見えた。それを見ながら「非日常体験」などと優雅なことは言っていられなかった。

宿泊者は日を経るごとに減っていた。そしてバーも常連さんの割合が高くなっていた。


2月の下旬、大学側から卒業式は取りやめるとオンライン掲示板上で発表があった。

両親は東京に遊びに来られる口実がなくなったことを悔やんでいた。


大学に友達があまりいなかった私は、卒業式なんかないほうがいいとさえ思っていた。


4月からは大企業で働く。

第一志望の出版社だ。

スーツの袖に腕を通し、背筋を伸ばして東京を闊歩するのだ。

仕事帰りには恋人と美味しい居酒屋やレストランで待ち合わせる。

大きな企画をやり終えたら、ネクタイを緩ませ仲間と酒を飲み交わす。


何度も思い描いた夢は、もうすぐそこにきていた。

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