第5話 ダンジョン育成
「こちらです、グリフ様」
そうファブニルとルースに案内された場所は最初の大部屋の奥に置かれた玉座くらい豪華な椅子の後ろにある小さな部屋の中であった。
その部屋の中には小さく透明な球が浮かんでいた。
「これがどうしたんだ?」
「これはダンジョンの心臓です。この球にグリフ様の魔力を注ぐ事でダンジョンは成長していきます」
「俺じゃないと駄目なのか?」
「はい」
なるほどね。こいつに魔力を注げば良いのか。
そうと分かれば話は早い。
俺は早速浮かんでいる透明な球へと手を伸ばすと魔力を込め始める。
すると、浮かんでいる透明な球が段々と黒く染め上がっていく。
そしてその黒色が球の全てを覆い尽くした時、一際大きな黒い光を発した。
「う、まぶし」
「おめでとうございます。これで一階層増やせました」
「え、こんなので良いのか?」
確か一階層作り出すのに並程度の魔力を持つ人間が十年かかるって聞いてたんだが。
今のなんてほんの数秒だぞ? 魔力量に関しては結構持って行かれた気はするけど。
「はい。ダンジョンの心臓を魔力の光で満たす事で階層を増やす事が出来ます。そして、一度光を満たした心臓はまた元の透明な球に戻ります」
ファブニルに言われた通り、ひとしきり光り終えた後、また元の透明な球体へと戻るダンジョンの心臓。
「これでもう一回光を満たせばまた階層を作れるんだな?」
「そうなります。ですが一つ注意点を。ダンジョンの階層は一階層増やすごとに必要な魔力量もどんどん上がっていきます。あまりご無理なさらないよう」
「大丈夫大丈夫。こんくらいならいつまでもいけるぜ」
そうして俺はもう一度ダンジョンの心臓に魔力を込め始める。
確かに最初より持っていかれたな。これを後千回か……
「いや、途方もねえな!」
♢
「グリフ様、ご案内させていただきたい場所があるのですがよろしいでしょうか?」
「うん、良いけど」
ルーズに言われて俺は後をついていく。そして部屋から出たときに思い出す。そういや俺ってこの部屋からまだ出てなかったな。
もしかして案内したい場所って他のダンジョンの階層の事か?
そんな疑問を抱きながら俺はルースに連れていかれるがまま、ダンジョンの階段を上っていく。そうして階段を上り終えた後、目の前に広がる光景に思わずおおっと声を漏らす。
「魔物が居るじゃねえか」
「実は階層を作るごとにその階層に魔物が生まれるのです。今から会っていただくのはこちらの階層の主であるドウジという鬼の魔物でございます」
「え、大丈夫? 殺されない?」
魔物って基本魔族に使役されてるイメージしかないから襲われる気しかしないんだけど。
「ご安心を。このダンジョンで生まれた魔物達は皆、ダンジョンの主であるグリフ様に服従しておりますので」
そうして案内されてたどり着いた場所に居たのはゴクゴクと瓢箪から何やら酒のような物を飲んでいる巨大な鬼の魔物であった。
「おっと客人かと思えばよぅ、主様じゃあねえかい。ちょいと待ってくれ。今、酔いを醒ますからよ」
酔いを醒ますってやっぱり酒じゃねえか。こんなダンジョンに酒なんてあったんだな。
てかそれはそうとしてどうやって供給すんだ?
「彼の様にダンジョン内には大体十階層に一体、主と呼ばれる魔物が存在します。ダンジョンを育てるにあたって主達と連携を取るのが重要になってきますので」
そう言うとルースは懐からとあるものを取り出し、ドウジへと手渡す。
「何だこりゃ?」
「それはこのダンジョン内を移動することが出来る魔道具です。ダンジョン内では度々会議を開くことがあると思いますので、挨拶がてらこれを私に来ようと思いまして」
「なるほどな~」
ていうかこの人本当に何でも知ってるな。ダンジョンが生まれた時に同時に生まれたんじゃなかったの?
「そういやルースとかファブニルとかって生まれたばっかだってのに何でそんなことまで知ってんだ?」
「私とファブニルはどちらかと言えば召喚されたに近いですからね。死して天を彷徨っていた身体を持たない魂であったのが、グリフ様の手によって新たにこの世界へと生み出されたので」
「え、死者蘇生的な?」
「まあそんな感じですね」
なるほど、だから妙に魔法の元の形とかダンジョンの構造とかを知ってたんだな。……ん? てことは俺が教えられた魔法って古代魔法とかいう奴なんじゃ?
「ダンジョンの主に挨拶も出来たことですし、部屋へ帰りますか」
「お、おう」
こうして長きに渡る俺のダンジョン育成生活が始まりを告げるのであった。
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