ハーレムはセクスキャリバーの名のもとに
藤原いちご
Chapter1 - Gran.V
第1話 魔札
数多の種族が存在する幻想なる魔法世界──グランヴァリエ。
この
しかしある日、人類以外の世界中の生物は急激なる進化を遂げ、恐るべき力を手に入れた。そして特筆すべきはその多くは狂暴化し、他の種族を襲うようになった。
その歴史は
この進化の背景には〝アーカーシャ〟と呼ばれる秘密組織の関与がまことしやかに囁かれている・・・が、それは飽くまで都市伝説的に語られている噂話であり真実は依然として闇のなかだ。
─
今世紀におけるグランヴァリエの支配層は亜人種・ゴブリークと人類種に二分される。
両者睨み合う形で対立が続く中で、どちらか一方の完全支配にまでは至らないまま膠着状態が続いている。
ゴブリークは基本的に人類種と同じ
何よりゴブリークはそのような多様な生態系でありながら、非常に高い繁殖力があるということ。
そして最たる特徴は〝人類種〟すら食料にするということだ。
他にも急激な進化を遂げた生物もいるが、そのどれもは人類にとって種の絶滅を脅かされるほどのものではなく、ただ1つゴブリークだけが唯一の敵と言える。
だがそんなゴブリークに対しても、人類種には抗う叡知、魔法学と呼ばれる力がある。
それは摩訶不思議な力で、使用者に超常的な効果をもたらす特質能力。
かつて人類が世界の頂点に君臨し、完全なる絶対支配を敷いていた時代には、この能力というのは魔法帝国・グランヴァリエの一族だけが扱える奇術として広くしられていた。
この世界そのものを呼称する名が、王家の名を冠するほど、人類は…引いては王家は世界にとって支配者として驚異になっていたと言える。
ゴブリークの台頭を前に、王族たちは人類の存続をはかる為、苦渋の選択の末に下した選択は、独占していたこの能力を全人類へと共有し、その力を解放するということだった。それは実に百年前まで遡る出来事である。
王家一族の魔術師が持つ、
それから更にその紋様に触れることで、入れ墨のようにして体に紋章が刻まれ、力が加わることで能力を発現できるようになる。
中には紋様が浮かび上がらない者もいて、そういった人々は「
武装してもそれを上回る対抗手段が無いために、容易にゴブリークの餌食となってしまう。
だが、紋様が浮かび上がりその能力にひとたび目覚めた者は、この世界を救う救世主の1人となる資格を得る。
人類はその紋様を体に刻む者たちを、かつての神話に存在した救済主の化身という念を込めてこう呼んだ──「
もちろん、中には能力だけを享受し、その力を以て不当に略奪や殺戮を行う不届き者も存在する。
そういった道を踏み外した者は「
そして、五百年の長い歴史を経てついにゴブリークから初めて王たる器を持つ者が誕生した。
知力、戦力、カリスマ性、統率力、ありとあらゆる面において他の同族を凌駕するその王は、人類の象徴であるグランヴァリエの王・アマトを殺害することで完全なる世界支配を達成すると高らかに宣言した。
むなしくも老衰したアマト王にはかつてのように戦う力も無く、ただ世界中の
「この私の王の座と引き換えでも構わない! ゴブリークを討ち取って欲しい! 王家のありとあらゆる全てを継承する!」
アマト王の世界中へ放った宣言もまた、瞬く間に各地を駆け巡った。
こうして世界ではゴブリークと人類、それぞれの王が相対する形で〝支配権戦争〟が幕を開けた。
◇
─グランヴァリエ帝国・某所
ふと目が覚めると、寝室のような空間の中に居た。ベッドに横たわっているが、なぜ自分がここにいるのかは思い出せない。
辺りを見回せば同じようにベッドが数台並べられているが、そこに誰かが居る様子はない。
目を閉じて記憶を思い辿ろうとすると、室内の扉がギギィと音を立てて開く。
扉の方に目をやるとそれは大層な軍服に身を包んだ軍人が立っていた。
そのまま、軍服を着た三人の男が何も迷う様子もなく近付いてきた。
「6番、話がある」
…6番と呼ばれるが、それが己の名前ではないことだけは分かる。自分の名前は〝デイン〟だ。
田舎の商人の生まれだがとうに両親は失っている。その記憶はある。
ただひとつ記憶にないのは、なぜここにいるのかと言うことだけだ。
「・・・ここはどこだ?」
色々と脳内を駆け巡った言葉はあるが、一番真っ先に声として出たのはその言葉だった。
「まずは場所を移したい。出ろ」
そう言うと、軍服の男は取り出した手錠を自分の手と俺の手とを繋ぎ行動に制限を加えてきた。
言われるがまま男に引っ張られるような形で外へと連れられる。
待機していた他の二人の男に左右を囲われるようにしてそのまま別室へと向かった
案内されたのは窓の無い別室で、湿っぽさは先ほどまでいた部屋とさして変わらない。
部屋に入るや否や男に繋がれた手錠は取り外され、体だけは自由の身になった。
一人は扉の前に立ち塞がり逃げ道を断ち、もう一人は俺の背後をべったりと張り付くようにして突っ立っている。
そして最初に先ほどのベッドルームで話しかけてきた男が乱雑に椅子へ押し付け、深々と座らされた。
「手短に話すが、ここから先はお前の生き死にが掛かっている。少し賭けをしたい。」
男は鍵の掛かった戸棚からなにやら薄い紙を一つつまみ上げてこちらへ向けた。
「なんだそれは?」
「そう焦るな。順を追って話す」
男に窘められたが、すぐさま切り替えて本題へと入った。
「まず世界情勢だ。ゴブリークからついに王となる傑物が現れた。やつは我らが王を殺し、世界を奪い取ると宣言している」
ゴブリークについては俺もよく知っている。なんとも気味の悪い化けモンで、過去に何度か襲われた事もあったが奇跡的に小柄な個体だった為なんとか今日まで無事でいられている。
「残念ながら王はもうご老体だ。そこで自らのお立場と引き換えにゴブリークの王を討ち取って欲しいと仰せなのだ」
「だが俺はまだ勇者ではないぞ?」
「もし…お前に勇者となれる素養があるなら……どうだ? 試すだけならお前もお望みだろう?」
「ってことは、その紙切れは……」
「あぁ、
そうだ。俺は能力を得て
こんなチャンスが巡ってくるならどちらにせよ結果オーライだ
「だが
「だから賭けだと言ったんだ。お前が勇者と成ればゴブリーク王を討ち取る為に動いてもらう。」
「だが少し待ってくれ。そもそもの話だ…俺は一体なぜこんな所に?」
「あいつらめ…手間が増えるから手荒い方法はやめろと言ったんだが……まぁいいだろう、話しておこう」
男は少々不機嫌そうだったが、ここに至るまでの空白の記憶の経緯を話した。
聞くところによると、どうにも俺は城下町で捕らえられていたらしい。
それがなぜあのような部屋にいたのかは不明瞭だが、大方、室内の状態から推察するに兵の仮眠室と言ったところだろう。だが、問題なのはそんなことではない。
ここに至るまでの経緯…どうにもそれがまだ思い出せない。
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