第13話 悲劇のヒロイン
自分を追い出したシーラ親子に対して復讐したいと考えているマリンは、
「最近、シーラ様はあざとい程に殿下にしなだれかかって、ご自分の胸を押し付けるような真似までされているそうですのよ?」
という友人の話を聞いて、シーラが妃の座を狙っているのだと判断した。
シーラは精霊の加護を認められてバーグマン侯爵家の後継として認められることとなったのだが、ゼタールンド伯爵家で生活をするようになったマリンは、本当にシーラが加護を持っているのか疑問を持つようになったのだ。
それは母のペルニラも同じようで、大金をかけて調べさせたところ、どうやら愛人ビルギットは、精霊教会の司祭長と深い関係にあったらしい。
熱心な信者という触れ込みでビルギットが教会に足繁く通うようになって半年後、シーラが精霊の加護を持つ者として宣言されることになったのだ。
「王国の若き太陽にご挨拶させて頂きます、私、ペルニラが娘マリンと申します」
修道女長に案内されて司祭の間へとやって来たマリンはカーテシーをすると、修道女長に促されるままに、王子の向かい側の席に腰を下ろした。
「何でも令嬢は、この長雨の原因に心当たりがあるということだが?」
「はい、その通りです」
マリンはひたと目の前に座る美しい王子を見つめると、瞳に涙を溜めながら訴えた。
「私はバーグマン侯爵家の娘だったのですが母が離縁されたことにより、今はゼタールンド伯爵家に身を寄せております。そこで、母と共に集めた証拠を殿下にお渡ししたいと思うのです」
大金をかけて潜り込ませた司祭が手に入れたのは、侯爵家が司祭長に対して多額の献金を行ったという証拠である。その献金の受け取り証の複写と共に、シーラが精霊の加護を持つ者であると喧伝された経緯が時系列で述べられた報告書が並べられ、おそらくシーラは精霊の加護を持っていないであろうということが司祭の証言として記されている。
「実は貴族の間では、精霊の加護を持つということが憧れのようなものとなっており、文字も読めない書くことも出来ないと嘘の訴えをして、さも精霊の加護があるように喧伝するようなやり方が横行しているのです」
マリンはハンカチで涙を拭きながら言い出した。
「実は私の従妹がまさにこれでございまして、文字が読めない、書けないとわざとそのようなことを言うのです。ですが、彼女は本物の加護持ちではないので、家庭教師たちはすぐに嘘をついていると見破る事になったのです」
家庭教師たちは嘘をつくなと言ったところで、特別な人間であると主張するビビはそれを止めようとはしない。その姿を見て、まさかシーラも同じようなことをしているのではないかと気に掛かり、マリン親子は自ら調査を開始した。
「すると、殿下と結婚する年齢に適した令嬢たちが、文字が読めない、書けないということで、精霊教会から加護もちであると宣言されていることに気が付いたのです。そして、このような形をとっている家ほど、司祭長に対して巨額の献金が行われていたのです」
マリンは涙を拭いながら言い出した。
「そうして、今、このように雨が降り始めたのを見て、私はますます実感したのです。加護持ちではない令嬢を加護持ちであると宣言した、愚行を犯し続ける精霊教会に対して精霊様がお怒りになっているのではないかと」
「面白い!」
マリンの話を聞いたマルティン王子は、そう言ってクツクツと笑うと、
「実に面白い話ではないか!」
と言ってマリンに向かって極上の笑みを浮かべたのだった。
「それで、ご令嬢は自分を追い出した親子に復讐をするために、私の助力を仰ぎたいということなのかな?」
ビルギット親子が正夫人を追い出したのは有名な話であり、いくら加護を持っているからと言って庶子扱いの娘を後継者に据えた侯爵のやり方に納得がいかない者もそれなりの数は居る。この状況で本当は加護を持っていなかったのだと喧伝されれば、侯爵家は大きな傷を負うことになるだろう。
「いいえ・・殿下・・いいえ・・・」
マリンはハンカチで目元を押さえながら訴えた。
「私は・・居なくなったビビを・・ゼタールンド伯爵家の令嬢であるビビを・・見つけて欲しいだけなのです」
マリンの訴える姿は哀れにも見えた為、マルティンの後ろに控える侍従や護衛の兵士たちの目に憐憫の色が含まれる。
「復讐など私には必要ありません。従妹のビビは私の妹のようなものなのです、男遊びが激しいと噂されているのですが、本当はとても良い娘なのです」
マリンは涙を流しながら言い出した。
「どうか殿下のお力で、行方不明となったビビを見つけては頂けないでしょうか?」
ここ最近、デビュッタントを控える令嬢たちに言い寄られ続けて辟易としていたマルティンは、自分の心臓が興奮のあまりに跳ね飛んでいることに気が付いた。
「そうか、ご令嬢は復讐よりも自分の従妹の行方を探すことを選ぶのか」
「はい!」
はっきりとそう答えるマリンを見つめながら、
「妹のエスコートがなければ其方をエスコートしたのだがな・・」
と、王子は言葉を漏らした。その言葉を聞いた時、マリンの心は喜びに打ち震えたのだった。
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ただいま『緑禍』というブラジル移民のブラジル埋蔵金、殺人も続くサスペンスものも掲載しております。18時に更新しています。ご興味あればこちらの方も読んで頂ければ幸いです!!
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