第13話 仲間【4月】

「先生!私も練習したいです!!どうすればいいですか!?」

「まぁまぁ落ち着けって。んー…まず楽譜を読む練習だな」

「えー!楽器やらせてください!」


一応仮入部だし何かしら叩かせてもいいんだが、何がいいか悩ましいところだ。

楽譜の読み方も教えなければ、後からそこで嫌になっても困るからな。


「やってみたい楽器はあるのか?」

「やっぱドラムですね!新歓のときすっごくかっこよかったので!」


あーこいつは納得だ。俺と思考回路が似ている。

そして、ドラムを叩いてかっこいいと言われたのは本当に久しぶりで、不覚にも嬉しいと思ってしまった。

仕方ない、初心者でも何でもやる気がこれだけあるんだ。

俺は吉川をドラムの置いてある楽器室に連れていくことにした。


「わぁ〜たくさん楽器ありますね!」

「そうだな。昔はそこそこ部員もいたみたいだし」

「あ!これですよねドラム!先生が叩いてたやつ!」

「おう。とりあえず俺が基本の叩き方を教えるから見ておいて」

「はい!!」


ひとまずここは8ビートでいいか。テンポゆっくりめで分かりやすく。

斜め横の吉川からものすごい熱視線を感じる…やりづらい。


「右手で上からこっちのハイハットってのを叩く、左手は交差してスネアね。まぁ小太鼓みたいなやつ」

「はい!えっと、足は…?」

「右足でこのペダルを踏む。結構強めに踏んでいい。このペダルで叩いてるのはバスドラムっていうもの。左足はこの右手で叩くやつのペダルに乗せておく」

「へぇー!すごい同時に色々してたんですね!」

「叩けそうか?」

「はい!やりたいです!」


ドラムは色んな楽器の集合体だから説明はしたけど、吉川が理解できているかは分からない。

吉川はササッとチェアに座り、俺の言った通りに手足を配置した。

ふぅーと大きく呼吸すると同時に8ビートを叩き始めた。


いや、待てよ。どこでも教わってないのに今見ただけで当たり前のように叩けている。

しかも安定して研ぎ澄まされたリズム感。

細かい技術はないにしろ、教えたら格段に上手くなる予感しかない。

普通、ドラムを練習したことのない初心者なら、両手足バラバラに動かすだけで精一杯なはず。

これがセンスってやつなのか?


「吉川、本当に今日がドラムに触ったの初めてか?」

「はい!もちろんです!ドラムって楽しいですね!!」

「これで初心者なのか…」

「ん?先生どうかしましたか?」

「いや、ハッキリ言わせてもらうと、吉川は絶対に上手くなる。俺なんかよりずっとな」


吉川はキョトンとした顔でこちらを見ている。

俺は『天才』とは、本当に無自覚でセンスがある人のことだと思っている。

だから俺みたいに、好きでがむしゃらに努力して色んなものを自分の手で得てきた人間を『天才』の一言で片付ける奴らが嫌いだった。

吉川は興味のあるものに対する発想は俺と同じだが、元々のセンスが違う。

これが『天才』なんだよ。



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