第6話 天才と呼ばれた男

俺は小学校6年間、ずっと独学でドラムを叩き続けた。

音楽の先生が途中で変わっても、なんだかんだやらせてもらった。

しかしドラムに熱中する代わりに、友達はどんどん離れていった。


中学では絶対に部活でドラムをやりたかった。

そうすればたくさんドラムに触れていられるから。


母さんにはオーケストラ部の強い私立校を勧められたが、俺は言いなりになりたくなかった。

結局オーケストラ部に入部させてヴァイオリンを弾かせようって魂胆だと思った。

俺はその部活の実力なんてどうでも良かったから、地元の中学校へ入学した。


「ドラムがやりたいなら吹奏楽部においでよ!」

「そうだよ!経験者なんでしょ?大歓迎だよ!」


担任にドラムのことを相談したら、吹奏楽部の先輩たちが入部を誘ってくれた。

吹奏楽部ならドラムが思う存分できるんだ、そう思って見学もせず入部を即決した。


しかし現実は違った。

パーカッションパートに入ったが、1年の俺になかなかドラムを叩く機会はまわってこなかった。

振り分けられるのは、言っちゃ悪いが地味な打楽器ばかり。

目の前にドラムがあっても、いつも先輩が叩いていた。


「亘くんはドラムやりたいんだよね?」

「はい、ドラムができると思って入りました」

「その気持ちは私もよーく分かるよ。でもね、吹奏楽ではドラムだけができるわけじゃないんだよね」

「そうなんすね…俺、何も分かってなかったっす」

「仕方ないよ。1年のうちは結構地味な楽器を任されると思う。でもそれだって、楽譜に載っている以上、なくてはならない楽器なんだよ」

「なくてはならない…」

「そう!なくてもいいなら楽譜に載せないでしょ?それにパーカス(パーカッションの略称)ってさ、みんなそれぞれの楽器をひとりでやるから代わりがいないの。それってなんかかっこよくない?」


先輩の言葉に胸を打たれた。

たしかに、他の管楽器や弦楽器とは違う。打楽器は各々違う楽器を奏でる。

同じ楽器でない分、ミスも目立ってしまうけどひとりひとりが独奏者ソリストだ。

つまり、パーカッションってみんなが主役級なんだ。


「はい!すっげーかっこいいっす!」

「よし!分かったらパート練再開するよ!」


俺は先輩の言葉に感動してから、パーカッションの色々な楽器に触れることが楽しくなっていった。

毎回何の楽器を任させるかワクワクして、練習も人一倍やり込んだ。


そして1年の冬、初めてドラムの楽譜を渡された。

やっとだ、やっと大好きなドラムができる。

他の打楽器も好きになったけど、俺の中の一番はやっぱりドラムこいつだ。


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