第22話 星side 気づいた気持ち

 どうも俺は、女にモテるらしい。


 なんて言ったら、自慢かよと怒られるかもしれないが、別にそれを嬉しいと思ったことは一度もない。

 って、こんなこと言ったら、また怒られるだろうな。


 けど事実だ。

 興味も無いやつに必要以上に絡まれるのも、好きなタイプだのどうやったら好きになってくれるかだの、俺自身よくわからいことを根掘り葉掘り聞かれるのも、誰それが俺と話したとか色目使ったとかで女子同士がケンカするのも、正直うんざりしていた。


 特に最後のやつ。

 ケンカしてる奴ら全員興味ねえし、なんなら名前も知らないやつだっている。そんなやつらの争いに、俺を巻き込むな!

 ずっと、そんな風に思ってた。


 けど、例外だってある。

 坂部が体育倉庫に閉じ込められたのを見つけた時は、こんなことしたやつを許せないって思った。

 朝登校して、坂部の姿がなかった時は、何かあったのかと心配になった。

 もしも何かあったなら、絶対に守らないとって思った。


 だから、坂部を守れるなら、少しくらいうるさい噂が流れてもいいと思った。

 ただし……


「星、それに坂部さん。聞いたよ。二人とも、付き合ってるんだってな──痛っ!」


 昼休み。

 周りに誰もいない校舎の一角で、ヘラヘラと笑いながら俺と坂部にそんなことを言ってきた俊介の頭を、軽く小突く。

 俊介は大げさに頭を押さえて痛がったが、もちろん手加減はしたからな。


「大森くん、違うの。それは嘘って言うかなんて言うか……」

「わざわざ説明しなくても、本当はだいたいわかってるだろ」


 何しろ草野たちと揉めた時、こいつがそんな嘘を言い出したからな。

 草野たちがその嘘を信じたせいで、今更否定できなくなったんだよ。


「お前が全ての元凶だな」

「酷いな。それくらい言った方が、堂々と坂部さんを守れるだろ。星だってそう思ったから、その嘘に乗っかったんじゃないか」

「それはまあ、そうだけどな……」


 素直に認めるのは癪だが、その点はこいつの言う通りだ。

 坂部に何かあったら守る。それ自体は変わらないが、ただの知り合いでなく彼氏彼女じゃ、より明確な守る理由になるだろう。


 教室で嘘の恋人宣言をした後、俺と坂部じゃ釣り合わないなんて、勝手なことを言ってるやつらがいた。

 だから俺は不機嫌を隠さず、「坂部のことを悪く言うやつも、いらないちょっかいかけてくるやつも、全員許さない」と言ったら、そいつらは真っ青になって押し黙った。


 彼氏彼女じゃなけりゃ、ここまでハッキリ宣言するのも難しかったかもしれない。


「けど今さらだが、坂部はこんな噂が流れて大丈夫か?」

「えっ、私?」

「ああ。その……例えばだけど、お前、好きなやつっているか? もしいたとして、そいつがこの話を聞いたら、いいことにはならないだろ」


 草野たちの前や教室で付き合ってるって宣言した時は、そこまで考えが回らなかったけど、どうなんだ?


「だ、大丈夫だから! 好きな人なんていないし、予定もないから!」

「そ、そうか」


 なぜか、ものすごい勢いで否定する坂部。

 まあとにかく、坂部の口から好きなやつがいないって聞けて、心底ホッとした。


 他に好きなやつがいるのに、俺と付き合ってるなんて噂が流れたら、迷惑なんてもんじゃないからな。


 けど、それだけか?

 本当は、そんな坂部の都合みたいなものじゃなくて、もっと自分の自分本位な理由でホッとしているような気がした。


 なんて、そんな風に曖昧に誤魔化すんじゃなくて、いい加減自覚するべきだよな。

 ここまで坂部を特別扱いする理由なんて、ひとつしかないだろ。


 自分の気持ちに気づいたその時、胸の奥から、熱いものが込み上げてくるような気がした。

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