異世界転生したら魔王が一緒でした、脳内で。
銀城
第1話 プロローグ
「おぎゃあ!ぎゃあ?(どこだここ!?あれ?)」
ふと目が覚めると全く知らない家にいた。
我が家……というか現代日本の建築様式からは大きく外れているような空間。壁や床が丸太を組んで作られている辺り、家というより小屋という表現が正しいだろう。
「おぎゃんぎゃ!(体が動かない!)」
仰向けに寝かされているようだが、首を回そうとしても固定をされているかのように動かない。手や脚は動く感覚はあるのだが、どんなにジタバタしても何も掴めず視界にも入らない。
それにさっきからずっと赤ちゃんの声が真横からガンガン響く。
「おんぎゃぁー!(そもそも僕は何してたっけ?)」
確か今日は平日だったはずだから、いつも通りに学校に登校したはず?
ああ、思い出してきた。確か朝少し寝坊して急いで家出たんだった。学校の最寄り駅で友達の佐藤と会って、二人で走りながら学校に向かったはず。それでギリギリ信号に引っかかって、うまく回避できた佐藤を見送りながら僕に構わず先行け!って叫んだなぁ。で、信号渡った佐藤が妙なこと叫んで手振りしてて、そしたらトラックが……あれ僕轢かれてる!
死んだ……?いや生きてる。
「あー、起きちゃった。ど、どうすればいいのかなぁ。どうしたんでちゅか〜?お腹すいたんでちゅか〜?」
「おぎゃ!ぎゃぎゃぎゃぎゃあ!(あ!そこの人どうなってるのこれ!僕の名前竹中雄平なんだけど!この名前に覚えありますか?)」
そこで視界の端に女の人が立っていることに気がつく。その人は僕の隣にいるであろう赤ちゃんの世話に夢中なのか、赤ちゃん言葉を話しながらこちらに近づいてくる。
そりゃ子供は大事だけどこっちだってどうなってんのかわかんないんだから!ちょっと話聞いてよ。
「んー、漏らしてはなさそうだからお腹空いたのかな?はぁー、流石にちょっと恥ずかしいけどやるしかないかぁ。」
そう言うと女性は服をはだけさせ、胸を露出する。
そもそも来ている服が普通の洋服とは違う不思議なものだったけど、そんな話じゃなくて!
「一応おっぱい出るようにしたんだけど……本物じゃないのは我慢してね。」
視界の中にその女性の顔がはっきり入った。そしてその瞬間息を呑んだ。
整った顔立ちにシミひとつない雪のような白い肌。童顔気味の顔だが、その大人びた表情にはどきっとするものがある。
横たわっている状態では比べるものがないため身長はよくわからないが、150cmはないと思う。しかし、少し低めの身長の代わりに胸元の柔らかい二つの丘は豊満だった。
くっそー!あんな美人が親なんて羨ましいことで!おっぱいは揺れてるし、なんか耳もなんか大きくて揺れてるし……耳?
「うぅ……おっぱいでちゅよー。」
その女性は顔を真っ赤にしながら、僕を持ち上げ胸元に運ぶ。はだけた服を授乳しやすいようにもう一度調整し、掛けていた高級そうなネックレスの位置を変えて僕の口元にそのまま胸を近づける。
「おぎゃあ!?(なんで僕⁉︎ )」
というか僕を持ち上げるなんてどうやって……てかなんで僕に?
さっきから喋るたびに赤子の声が聞こえてると思っていたけど……僕が赤ちゃんなの?
そもそもなんでこの人耳長いんだ?
もしかしてこれって異世界転生してる?
◇
「んぎゃあぎゃあ!(おっぱいもっと!)」
せっかくならと思いっきりおぎゃることにした。
聞いたところによるとこの女性……名前はエイラツィオというらしい……は僕というかこの体の母親ではないらしい。森の中で見かけ保護した子供らしく、自分の体に魔術を掛け母乳を出せるようにして今授乳しているとのこと。
魔術などいよいよ異世界じみて来たが、現在の僕に大事なのはそんなことじゃない。
こんな風に文字通り赤ちゃんになってこんな美人相手にバブれるのは滅多にない。異世界転生でもしないと味わえないし、あと数年もしたら出来なくなる。
「んっ……元気がいいね。どんな健康状態か不安だったけど、これなら大丈夫そうだ。」
はっはっは!今の僕は無敵だ!なんだって赤ちゃんだから!
「おぎゃあ!んぐぎゃ!(ママ〜!もっとおっぱいちょうだい!)」
「はいはい、それにしても君どうしようか?ずっとボクが世話するわけにもいかないしなぁ。でも麓の村に預けようにも、そもそもそこの人が捨ててる可能性もあるんだよね。」
「ばぶぅ!ぎゃああ!(捨てないで!)」
「あっちょっと!そんなに強く掴まないの。」
あと母乳超うめぇ。体がこれを求めてるのがわかる。脱水症状の時にスポーツドリンク飲むみたいな感じで、一口一口が脳を揺らすほど甘美でありながら際限無く飲めてしまう。
「ばぶばぶ!(こんなとこ人に見せられないな。)」
でも大丈夫、僕の姿は赤ちゃん。こんな可愛い赤ちゃんの中に転生してる男がいるなんて誰にも想像つかまい!僕の心の中を読めるやつがいない限り!
『いるぞ。』
あれ?興奮のあまり幻聴が聞こえてきたかな。
『面白そうだと思って黙っておったが……くっくっく、幼児退行する成人男性の姿は余興にはなれど芸としては不足じゃな。哀れみが勝つの。』
いやこれ幻聴じゃない⁉︎なんか頭の中から聞こえてくる!
『しかし異世界のぉ。妾の時代もなかなかに壮絶じゃったが、赤子の如く振る舞うことに恥もないとは。さぞ辛い人生を過ごしてたんじゃな。』
いやー、あれっすよ別におぎゃってたわけじゃないんすよ。赤ちゃんに転生したからには赤ちゃんとして生きるのが良いというか。適応力が高すぎるがゆえの結果というか。
『いや無駄じゃよ。妾はお前がどうな感情かくらいわかるからの。其方赤子の体じゃなかったらもうあれがああなるくらいに興奮しておったろ。』
うーん。
「おぎゃあああああああ!!!!うっ、うううううううう!!!(殺せぇええええええええええ!殺してくれえええええええええええ!転生なんて!転生なんてぇ!!!!こんな思いするならしなけりゃよかったぁあああああああああああああ!!!!)」
「えっ、ちょっとなんでいきなり泣いたのぉ!」
◇
大昔、ある異世界にて。
人族と魔族による生き残りをかけた大戦争があった。
そして、その戦争にて圧倒的な力で人族を蹂躙し、荒くれ者共の魔族を纏め上げた魔族の王……魔王がいた。
長年の戦争の末、あらゆる加護を受けた勇者をリーダーとするパーティに敗れたその魔王は、しかし死の直前に己にかけた魔術によって現代に転生してきた。
もう一度魔族を纏め上げ、人族の時代を終わらせるために。
新たな肉体に生まれ変わり、最強と謳われたその魔術と共に復活する……はずだった。
よく分からない世界から転生してきたよく分からない少年に、転生体を奪われなければ。
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