血が滴る花は生き帰らない

千歳小雪

プロローグ

その男は、逮捕されることに抵抗することはなく、

寧ろ、全てを受け入れた表情をしていた。

連続殺人事件の真実にたどり着き、男に手錠をかけた飯塚いいづかは、安堵あんどすると同時に、心の奥にわだかまりが残っていた。


「彼女たちは、当然の報いを受けたんだ。」

手錠をかけた際に男が発した言葉だった。

その言葉は、まるで呪いのように、自分自身に言い聞かせているように飯塚には聞こえた。

「罰を下すのは、お前じゃなくて法律だ。」

いつもの俺ならこう言っただろう。

しかし、口が半分開いただけで、何一つ言葉は出なかった。変な汗をかき、それがぽつりと地面に垂れた。

もし仮に言っていたら、彼はどんな反応をしただろうか。

法律がおかしい、と怒っただろうか。

それとも、あなたらしい、と笑っただろうか。

今、俺のしていることは本当に正義なんだろうか。


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