album sunlight

ひたかのみつ

第1話 陽のあたる場所で、大きくてもちもち

 空の淡い桜色が、だんだんと眩しさを増す時間になり、昇り始めた太陽が、立ち並ぶ家々の壁を眩しく橙色に染める。

 グリムの街に吹く春風は、からっとしていて温かく、植物の葉のような、さわやかで少し甘い、良い匂いがすると評判だ。



「ふぅっ…… 今日も良い天気になりそう」

 カーテンと窓を開けて、ぐっと大きく背伸びをすると、胸の中に新鮮な朝の空気が流れ込んだ。


 今日は目覚ましが鳴る少し前に、自然に目が覚めたぶん、さらに気分が良い。


 ベッドの毛布を整えると、シーツの奥からもちもちの毛玉が顔を出した。

「おはよう、アルバム。 良い天気だね」

「…… モチモチ」


 アルバムはまだ眠そうだ。


 アルバムは、銀の毛色のハムスターだけど、普通より凄いハムスターだ。

 大きさは、私のリュックサックと同じくらいあるし、とても賢い。自分の別荘を作れる器用さもある。


 ご飯の頃には起きてくるだろうし、そのままにしておこう。

 私はそっとアルバムの手触りを楽しんでから、階段で1階の共同庭に降りた。



「あ、ひざしちゃんおはよう」

「おはようリラちゃん。 もう起きていたの? 随分早いね」


 庭では既に、隣の部屋のリラちゃんが植物の世話をしていた。

 着替えも身支度もバッチリで、早朝なのにキラキラ輝いた瞳を大きく開いている。

 腰まである長い髪には寝ぐせも無く、新芽のような瑞々しさとツヤがある。


「うん、話していた貴重なアサガオが咲きそうだったから」

「あぁ!そうなんだ! まだ春なのに凄いよね、それでどう? 咲きそう? 」

「実は咲いたんだ~ ひざしちゃんを起しに行こうか悩んでたところだったから、ちょうど良かった。 見てみて~ 」

「もちろん! 見せて! 」


 庭の隅にある小さな花壇には、真っ赤な花弁に金色に近い白色の模様が入った、とても美しいアサガオの花が咲いていた。確かに、見たことが無い花だ。


「うわ、これは綺麗すぎるね……! 」

「でしょ! 世話をした甲斐があったよ~ 」

「種、とれるかな? 」

「うん、たぶん。 そしたら、このアサガオで、キラッキラな夏の花壇を、街にも沢山造りたいんだぁ~ 」


 リラちゃんは、楽しそうに意気込んでいる。

 花よりも柔らかい、素敵な笑顔だ。


 アサガオは、蕾の時と咲いた時とでは、花弁に含む酸とアルカリの成分バランスが違うから、その色が変化する。

 朝日が昇り、庭一帯がひなたに入った。 まだ小さな淡い紫色の蕾と、そこに着いた水滴にも、陽光が差して輝きを増している。


「見た人みんな驚くね、きっと。 こんな珍しくて綺麗なアサガオは無いよ! 」

「でしょ? ありがとう~ ひざしちゃん」


 あぁ、私も負けていられない。

 綺麗な街と、植物の知識をもっとつけて、このグリムの街の有名なブラウニーとして活躍したい。


「ところでリラちゃん、それって高く売れるのかな? 」

「どうだろう、グリムの街では貴重だけど、アサガオ系はもともと増やしやすいからね…… 」

「そっか」

「でも、売り場に並べるには十分じゃないかな? 」


 植物で街を彩り、管理し、多くの人の手元に届ける。 そしてもちろん、対価をいただくのも、ブラウニーを仕事にするなら大切な事。

 先生も「無償タダで造った庭園に責任は持たん」って言ってたし。



 リラちゃんも朝食はまだだったらしく、どうぞと笑顔で誘われたので、リラちゃんの部屋で一緒に食べることにした。


 スープを分けるリラちゃんは、後ろ姿も絵になるなぁ。 

 トースターから香ばしい良い匂いが漂ってきた。


「簡単な物しかないけど、召し上がれ~ 」

「スープにサラダもあって、すごすぎるよ…… パンも美味しそうな香り…… 」

「そう、かな? ありがとう。 それと、アルバムちゃんの分は味付けひかえてあるから安心して食べてね」


 全てを理解するハムスター、アルバム。

 リラちゃんの手料理を食べられると分かって、元気に飛び起きて付いてきた。


「ほっぺたもちもちだね~ 」

「モチモチ、モグモグ……! 」

 両者とも楽しそうで何よりだ。


「む! 何このスープ、美味しい! 」



「それで、ひざしちゃんは、今日はどうするの? 」

「とりあえず、先生の所に行って、それから依頼されている街の鉢植えのメンテナンスとかかな? リラちゃんは? 」

「私はお花屋さんかな~ 」

「そっか、あそこ広いからね…… お仕事頑張って! 」

「うん、ひざしちゃんもね~ 」


 私は部屋に戻って身支度を整え、お気に入りの花柄のスニーカーを履き、グリムの中心街にある、先生の事務所に歩いて向かう。

 アルバムは先生からとても気に入られているので、私と一緒に行くことが出来る。

 大事なペット家族を日中も寂しくさせずに出来て安心だ。


 大きくてもちもちなアルバムは、リュックサックにスッポリ納まっている。

 ちょっぴり重いけど、大変では無い。



 寮の共同庭を抜けると、グリムの街の賑わいと、目が覚めるように鮮やかな色で、数多くの植物たちが視界一杯に広がる。

 

 私は今日も、この緑あふれる街に目を凝らしながら、スニーカーで勢い良く歩く。





あとがき

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