第11話 第一章、十一『騎士団の詰所』

    十一


「こちらでお待ちください。責任者を呼んで参ります。」

 詰所の前にいた騎士に壮年の従者が話をした途端、一行はとても丁寧な扱いを受けた。

 伯爵令嬢ご一行という肩書きは、この世界ではかなりの物らしい。

 身分制度がある世界なんだなぁと、沢崎直は痛感していた。

 彼女が暮らしてきた二十五年にも多少のカースト的なシステムは存在していたが、この世界はそういう物がもっと厳格にあるようだ。こういう礼儀とかシステム的な物は、細心の注意を払わないと痛い目に遭う。昔見た時代劇で、町娘が切り捨て御免と言って殺されていた光景を思い出し、沢崎直は身震いと共に心の中にしっかりと刻みこんだ。

(どんな時も、失礼がないようにしないと……。)

 地味なモブとして生きてきた二十五年は、彼女に空気を読む力と控えめさを身に着けさせたが、この異世界では案外そういう物が役に立つかもしれない。

 上等な控室といった部屋に通された一行。

 壮年の従者はご令嬢を一番上等な椅子に座るよう促し、彼女も当然と言った様子で着席したが、もちろん沢崎直は礼儀正しく部屋の隅で壁と同化するようにして直立した。

 それを見て、ご令嬢は椅子を勧めてくれたが、もちろん断る。

 そんな沢崎直を見て、壮年の従者は少しだけ溜飲を下げてくれたようだった。


 コンコン

 

 ノックの音が響き、挨拶と共に一人の騎士がやって来る。

 室内に礼儀正しく入室した騎士の手にはティーセットが乗せられていた。

「失礼いたします。」

 ご令嬢の前にティーセットを並べ、歓迎の意思を示す騎士。

「まもなく責任者が参りますので、もう少々お待ちください。」

「いえ、お気遣いなく。」

 そんな騎士の様子を見ながら、会社での客の接待を沢崎直は思い出していた。

 騎士は、用事が済むと、一部の無駄もない動きで部屋を辞す。

 並んだティーセットを前にして、ご令嬢は着席したままもう一度こちらへと振り返り、沢崎直に椅子を勧めた。

 沢崎直は今回も丁寧に断った。

 それを見て壮年の従者は小さく頷いた。今回も正解だったようだ。

 

 コンコン


 先程の騎士の言葉通り、大した時間もかけずに、もう一度室内にノックの音が響く。

 次にやって来たのは、先程の騎士よりも存在感のある騎士だった。

 責任者を示すのだろうか?背中には豪奢で重厚感のあるマントを背負っている。

「失礼いたします。」

 騎士の入室と共に、ご令嬢も椅子から立ち上がる。

 それ見て、責任者の騎士は穏やかな笑みと共に口を開いた。

「いえ。そのままお座りください。」

「分かりました。」

 改めてご令嬢が座り直したところで、責任者の騎士も向かい側の席に着席する。

 多分、この詰所の責任者よりも伯爵令嬢の身分の方が上なのだろう。

 二人のやり取りから、沢崎直はそう推測した。

 責任者の騎士に続き、数人の騎士が室内に入ってくる。

 責任者が着席し、数人の騎士がそれぞれの配置に直立で着いた後、責任者は時間を無駄にせぬかのように口を開いた。

「それで?騎士団にどのようなご用件ですか?」


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