転生したらついてましたアアアアア!!!
@YUMEOIKO
第一部:モブ女転生編
序
序
「……女子力なんてくそ喰らえ。」
沢崎 直は天に向かってつばを吐いた。
まあ、厳密に言えば彼女は唾を吐くようなマナーの悪いことはしないし、現実には誰もいない夜の公園で、誰にも聞こえない独り言を呟いただけなのだが、要は心の持ちようの問題である。
沢崎 直は何本目になったか分からないチューハイの缶を握り、ため息を吐く。
結局、常識人である彼女にとって出来ることと言えば、アルコールで憂さを晴らすだけ。どれだけ、現実が苦しくても、理不尽な目に遭っても、どこかのJOKERになるわけにはいかないし、復讐など考えても空しいだけだ。
「……何なのよ、女子力って……。どんな力なのよ……。計測装置とか、誰か発明しなさいよ……。修行したら強くなったりするの?」
ぼやいているが返事は返らない。返るはずもない。
彼女は今一人だった。一人ぼっちだった。
慰めてくれるものも、愚痴を聞いてくれるものも、一緒に嘆いてくれる者もいない。
十年来の親友は、先日結婚してしまったし、恋人には先程フラれたばかりだ。
思えば、これまでの彼女の人生は、到底主人公とは言えないモノだった。
背は高くも低くもなく、グラマラスでもやせ形のモデル体型でもない。
顔面も中の中というところで、可愛い系というよりは美人タイプではあるものの、それはタイプ分けをしたらそちらに入ると言うだけで、別に美人なわけではない。
平凡、凡庸、地味、モブ。
彼女を形容する言葉は尽きないが、言葉を尽くすほどの外見ではない。
学力はコツコツ真面目に勉強した甲斐もあり、平均よりは上ではあるが、要領が特別いいとは言い切れないせいで凡ミスを重ね、点数を取りきれないところがあった。
運動も出来ないほどではないが、ヒーローになるほどではなく、父の影響で無理矢理習わされていた空手も練習をサボらなかったおかげでそこそこにはなったが、才能があるとは言い切れなかった。
パッとしないが、大した問題も起こさずに学生時代を過ごし、多くはないが少なくはない友達と思い出を作り、数人の恋人との経験がありはするが、結婚には結びつかずに一人暮らしをして仕事に行く。
沢崎 直(二十五歳)は、今までそんな人生を過ごしてきていた。
昨日まで、彼女はそれで満足していた。
完璧とか、他人が羨むとか、そんなことはなくても、地味で人によっては面白みがないと言われてしまうかもしれないけれど、それでも自分の人生はそこまで悪くないかもしれないと、ささやかな幸せを享受していた。
繰り返す毎日に嫌なことがあっても、それでも大丈夫と自分に言い聞かせられていた。
そう、昨日までは……。
「……女子力ってなんなのよ……。」
何度目になったか分からない独り言をつぶやき、彼女は夜の公園を後にする。
そして、公園を出てすぐ。
キキーーーーーーーッ!!ガシャーンッ!!
白い光に包まれ、その生涯を終えた。
終えたはずだ……。
終えたはずだった……。
翌朝、朝刊に載ったのは、飲酒運転の乗用車に撥ねられ会社員の女性が即死したというニュース。
沢崎 直(二十五歳)の人生は、幕を閉じた。
そして、新しい幕が開く。
これは、彼女が歩き出す第二の人生の物語。
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