46.夢は始まる

「おはよ、ハルト」

「シノか。おはよう」


 昨日の夜はラムネによる理不尽極まりない言動があったが結局はハルトが言いくるめ一件落着となった。

 その後すぐ部屋に戻ったハルトは静かに布団の中にくるまったのだがなぜその様な行動をしたのかは誰にもわからない。

 そんなことがあってから夜が明け朝となり今に至る。

 二階から降りればそこにはシノが椅子に座って眠そうにしていた。

 シノにしては珍しくハルトに夜這いまがいの行動することなく大人しく部屋に行き眠ったようだ。

 きっと色々あったから疲れていたのだろう。


 ハルトは何も考えずにシノの隣の椅子に座り窓から外の景色を眺める。

 まだ朝だというのに外には大勢の人が行き交っていた。


「……ハルト。昨日の夜は凄かった」

「昨日の夜?」

「うん。私は満足」

「俺、寝てる間に変なことしたのか?!」

「それはもうあんなことやこんなこと」

「ん!? いや流石にそんな覚えはないんだけどな……。え、それって完全に俺最低なやつじゃん」


 シノは椅子から降りてハルトの上にまたがる。上目遣いをしてくるシノにハルトは思わず顔を赤らめる。

 外から聞こえていた人々の声などは聞こえなくなり段々雰囲気が甘いものへと変わっていく。

 だめだ、だめだと理性に訴えかけるが一線を超えては本能に抗うことなどはできない。

 ハルトはシノの腰に手をまわして落ちないように支える。

 そしてシノは徐々にハルトの顔に近づいていく。

 その度に心臓が激しくドクン、ドクンと脈をうつ。今にも破裂するのではないかというほどに。


「……んっ」

「……シノ」

「……ハルト」


 シノの唇がハルトの唇に触れた時ハルトはハッとなって目を覚ました。

 ただの夢かと思っているとなぜかハルトは見たこともない景色が広がる場所に立っていた。

 目の前にはこじんまりとした小さな木造の家があり直感的にその家に入ろう……いや帰ろうという感覚になり扉を開く。

 すると家の中にはエプロン姿のリルが立っていた。


「ハルト、おかえりなさい。それよりご飯にする? お風呂にする? それともわ・た・し?」


 ハルトは唾をゴクリと飲み込む。 

 この選択、人生の分岐点と言ってもいいほどである。

 慎重に選択をしてついにハルトはあれを口にする。


「……リルがいい」

「……じゃあ行こ?」

「あぁ……」


 ハルトはリルに連れられて家にあがり二階へと上がっていく。

 二階にあがると扉を開きその中に入る。

 中には大きなベッドがひとつ置かれておりそれ以外には特別的なものなどは置かれてはいなかった。

 部屋に入ったリルはベッドに行き横になる。

 エプロンの下は何も着ていないのかと思えるほどに布がなく少しハルトは期待する。

 ベッドに乗るとリルの息が乱れ始める。


 ハルトは思わず寝そべっているリルの頭を撫でる。ペットの様に思えて撫でたのかそれとも人間として女性として可愛くて撫でたのか、真相はハルトにしかわからないが可愛くて撫でたというのは真実なのだろう。

 エプロンを脱がそうと手を伸ばした時リルがいじわるな顔をする。


「裸エプロンだと思った? 残念、ちゃんと着てるの。でも……脱がしてくれれば……夢が叶うよ?」

「……いいのか?」

「……ハルトなら」


 ゴクリと唾を飲む。

 そんな事をしていいのか、しかしリルが望んでいるなら……と葛藤をしながらもハルトはエプロンを脱がすためにゆっくりと手を伸ばす。

 リルの着ているエプロンはどうやら前側についている二つのボタンを外すことで取れるようでハルトはそのうちの一つに触れる。


 パチッ!


 とボタンが外れる音がして少しエプロンがずれる。

 次にもうひとつのボタンを外す。


 パチッ!

 

 二つのボタンがハズレたことでエプロンを脱がすことが出来るようになったのだがハルトはここで気づく。

 リルは下に服を着ていると言っていたのだがボタンを二つ外してエプロンがズレた時服を着ていたら見えるはずのない肌の部分が見えた。


「あれ、顔真っ赤だよ。もしかして気づいた? 私、着てないよ」

「なっ!?……」


 ハルトは慌ててリルから離れた。

 心臓の鼓動は既に信じられないほどに暴れている。

 顔を赤らめているリルは起き上がってハルトに近づく。

 その時エプロンがずれ落ち全てが見えそうになった時、ハルトは手で目を覆った。


 少しして徐々に手をどかすとそこはまた知らない場所だった。

 後ろからはハルトを呼ぶ声が聞こえてくる。

 振り向くとそこにはラムネがおりハルトの方に向かって手を振りながら走ってきていた。


「そう言えばシノさんとリルさんが怒ってましたよ!」

「なんで怒ってるんだ?」

「いつになってもハルトさんがどっちと結ばれるかを選ばないからですよ! ……一応、私も立候補してるんですけど」

「ラムネかぁ」

「何か不満なんですか!!? 確かに料理は出来ないですし迷惑をかけちゃうこともあるかもしれないですけどでもハルトさんが辛い時は一緒に居て支えられる自信があります!! だから、だから……!!」

「待って、待ってくれ。まだ俺がその中から選ぶとも言ってないし、そもそも俺だけが選ぶってのも変な話しだろ。それにまだ俺はシノやリル、ラムネの事をさ、全然知らないし。そんな状態で進んでくのはよくないと思うんだよ」

「そ、そうですか。確かにそうですねぇ!!! んじゃこれからは私についていっぱい知ってください!!」

「あぁ!」


 ラムネと一緒に歩き出した途端なんだか眠気がしてきてうとうとしだすハルト。

 目を一度つむりそして開くとそこにはベッドに寝っ転がっている海斗の姿があった。

 ハルトは思わず叫ぶ。

 

「あああああああああああ!!!!」

「どうしたんですか。ハルトさん。寝起き早々に叫ぶとか」


 ハルトの部屋にシノ、リル、ラムネが集まっていた。

 三人はなんだか怒っているようなそんな表情をしていた。

 ハルトがどうしてこの部屋に入ってきているのかと聞くとラムネが「ハルトさんが全然起きて来ないので全員でお越しに来たんですよ! そしたら……」といった。

 するとシノとリルが顔を赤らめながら何かをいい始める。


「……ハルト、私と夢の中でもそんな事したかったの?」

「……ハ、ハルトぉ。さ、流石にそんな破廉恥なことは出来ないよ……」

「……え? まさか……」

「ハルトさん!! なんで私だけなんか違う感じの雰囲気なんですかぁ!!!!」


 三人はハルトの事を見つめていた。

 そんなハルトの顔は恥ずかしさで赤くなっていた。


「……ハルト」

「ハ、ハルト……」

「ハルトさん!!!!」

「さ、最悪だァァァァァ!!!!!!!!」


 ハルトは布団の中に包まり全力で叫ぶのだった。

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