39.再会
ハルト達を乗せた馬車は【カーシス村】のすぐ近くまでやってきていた。外で作業をしている何人かの村民が向かってきている馬車の存在に気付く。
「こっちに馬車が向かってきてるぞ」
「あ、あれは王城の!!?」
「やっぱり……」
外が騒がしい事に気付き多くの村民が外に出てきて様子を伺っている。アリアも外に出てきて集まる村民の中に加わる。だがどうやら多くの村民がハルト達が敗北してしまったと勘違いし絶望していた。しかしその絶望は一瞬にして消えることとなる。次第に近づいてくる馬車、そこにはラットが乗っていた。それに気づいた村民達は歓喜しあい抱き合った。アリアはただただ涙を溢していた。
「三人とも本当にありがとう。君達のおかげで僕はこうしてまたこの村で過ごせる」
「これからはもっと幸せに暮らしてください。それじゃあここら辺で馬車止めても大丈夫ですよ。これから違うとこに行くので」
「いや礼をさせて欲しい。だからこのまま進ませて貰う!」
馬車は歓声の中ついに【カーシス村】に到着する。そしてラットは一目散に馬車を降り走り出す。それと同時にアリアもラットのもとへと走り出した。周りの村民は静かに二人の様子を見ていた。
「……ラット!!」
「アリア!!!」
二人は名を呼び合い涙を流しながら互いを強く抱きしめ合う。そして村民達は再び歓声をあげた。一方ハルト達は馬車から降りて二人の様子を眺めていた。
「ロマンチックです〜」
「ハルトもあれくらい出来たらいいのに」
「悪かったな。てかまだその段階にすら行ってないからな」
「それ、問題発言」
「なんで……」
ハルト達が話しているとアリアとラットが近づいてくる。
「ハルト、シノと……。本当にありがとね」
「本当に感謝してもしきれない。この恩は一生をかけて返させてもらうよ」
「別にいいですよ。助けたいと思っただけですし」
「なんていい男なんだ。俺達の間に娘でも生まれたら嫁がせたいくらいだ」
「それいいわね」
ラットとアリアが謎に盛り上がっているとハルトの少し後ろにいた二人が前にいきなり出てきては何かを言い始める。
「それはぁ! ダメですよぉ! 不純不純! 不敬、死刑、極刑!!!」
「燃やす」
「おい、二人とも失礼だろ」
「ふふ、ラット、これは無理そうね」
「だな。でも第三くらいならいけそうじゃないか?」
「第三………??」
言葉の意味がわからなかったハルトが困惑しているとアリア達の後ろからロルガルドが歩いてきた。そして歩いてきたロルガルドはハルト達に感謝の言葉を述べて一人一人に力強い握手をした。そのあとラットにも「すまなかった」と謝罪をした。ラットは自分が勝手にした事だからと言ってロルガルドに頭を下げさせるのをやめさせようとするが中々やめようとはしなかった。そこにロイドがやってきてラットが困り果ててるのに続けるロルガルドの事を無理やり止めた。
「そうじゃ。今日は宴といこうじゃないか!! 皆の者、準備をせい!!!!!!」
「おぉぉお!!!!!!!」
ロルガルドが大きな声で言うと村民たちは一斉に大きな声をあげ各々の家に戻っていった。どうしようかと思っていたハルトだがアリアが汚れているから樽風呂にでも入ったら? と提案してきたのでその話しに乗ることにした。馬車はロイドが操縦して村の安全な所に移動しておくとのことでハルトはさっそく樽風呂の方へ向かった。
樽風呂がある小屋に入ると既に水を拭き取る布が何枚か山積みにして置かれていた。ハルトはその横に脱いだ服をもう一度着れるように綺麗に畳んだあとタオルを腰に巻き沸かされていた樽風呂の中に入り込む。暖かい湯はハルトの疲れ切った体に染み渡る。
(次旅するならもっと平穏な感じのところに行きたいなぁ。まぁ何はともあれ無事問題が解決してよかった)
樽風呂でリラックスしていたハルトは近づいてくる何者かの気配に気づく。その数二人。一体誰なのかと思い扉の方を見ていると地面にボト、ボトっとどんどん服やら下着やらが落ち始める。そしてハルトはここで気づく。これ既視感あるぞ……と。
「おい、シノ! 俺入ってんだからちょっと待てよ!!」
小屋の外にいる者に対してハルトが声をかけると返事が帰ってきた。
「あ、私、アリアよ。ちょっと様子を見に来ただけだから」
その声は正真正銘アリアの声だった。ハルトは理解出来ずにポカンとしていると足音が聞こえてきてそれは少しずつ遠のいていった。ここでようやくハルトは本当にアリアだったのだと確信した。しかしどうやらそれは間違っていたようで小屋の扉がゆっくりと開いた。そこにはタオルで体を隠しているラムネと一応隠す気はあるのだろうが全然見えているシノが立っていた。
「ハルトさん、お背中流しますよ〜!」
「私を置いて浸かるなんて」
「いやいや、お前らっ! なんで入ってくんだよ!!」
「なんで入らないの?」
ハルトは目を手で隠し二人の姿が見えないようにして必死に言うが二人は全く聞いていなかった。そしてシノはハルトの入っている樽風呂へと入る。ハルトに背を向けるようにして体を近づけリラックスしだす。次にラムネも入ろうとするがシノがそれを拒んだ。
「ちょっと、どうしてですか! これ普通に風邪ひいちゃいますよ。ハルトさん! どうにかしてください」
「そんな事言われてもな」
「こんなか弱い全裸の美少女を放置するなんて! どんな性癖の持ち主なんですか!!!」
「そんな性癖は持ってねぇよ!!!」
ひたすら駄々をこねているラムネを見ていい加減呆れてきたハルトはシノをどかし樽風呂から出た。それに続いてシノも樽風呂から出てハルトの腕にくっつく。
「ほら、ラムネ。あとはゆっくりしてくれ」
「え? 私一人ですか? せめてシノさんは残ってくださいよ! なにか語り合いましょうよ!」
「むり」
ハルトは置かれているもう一枚のタオルで体の水を拭き取っている間、シノはラムネからの誘いを断り続けていた。
「ハルトさんについて語り合うとかは??」
「……ちょっと寒いから入る」
シノはそう言って樽風呂に入る。ラムネも嬉しそうにしながら樽風呂に入った。それを見ていたハルトは何がしたいんだと思いながら置いていた服を取りひとまず小屋の外に出た。他の人に裸を見られるのが恥ずかしいハルトは急いで服を着始める。すると中から二人の会話が聞こえてきた。
「ハルトさんってたまに酷いですよね!」
「うん」
「ハルトさんって案外馬鹿かもしれないですよね!」
「うん」
「ハルトさんってもしかしてもしかしたら弱いですよね!」
「うん」
(ちょっとは否定しろよ!!)
「でもハルトさんって優しいですよね!」
「うん」
「ハルトさんってめんどくさがりながらも結局はやり遂げちゃいますよね!」
「うん」
「ハルトさんって本気を出したらめちゃ強いですよね!」
「うん」
(さ、流石にそんなことはないんじゃないかなぁ)
照れているハルトは流石にこれ以上盗み聞きするのもよくないと思ってアリアのいるところに向かったのだった。
「シノさんって胸、私よりないですよね!」
「殺す」
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