17.宿暮らしのハルト

「何の為に俺達はここに来たんだ!」


「宿を探すため?」


「それもあるけど違う!!! 神託官だろ神託官」


「あ〜。でももう暗いし今度にしよ。そのうちあっちから来ると思うし」


「ん〜〜。それもそうか!!」


 ハルトは「ん?」攻防戦をして諦めたのかそれともただ単にハルトが馬鹿なのかそれともその他の理由なのかわからないがやけにすんなりと納得した。


「てか宿かぁ。ここら辺に宿なんかあるのか」


「それ」


 なんと目の前に都合よくたまたま【ヒトヤスミ】と書かれた看板がある宿が建っていたのだ。

 今日はついてるなと感じながら二人は宿の中に入った。


 宿に入ると皆のお母さんみたいな見た目をした優しそうな女性が「二人で何泊泊まるんだい?」と声をかけてきた。【ロイゼン王国】にいつまで滞在するかが完全にわからないハルト達は毎度宿を探すというのも面倒な話しなのでとりあえず「しばらく泊まりたいんですが」と尋ねる。


 すると女性は「良いけど代金は覚悟しときなよ」と冗談っぽく笑いながら言うがどこからか冗談ではなさそうな雰囲気をハルトは感じていた。それと同時にシノの硬貨がどれだけあるのか気になって聞こうとしたがそれより先に女性が「これが部屋の鍵だよ。部屋はそこに書いてある番号だから」と言って鍵をシノに渡した。


 シノは受け取った鍵を持ってハルトを置いて書かれた番号の部屋へと歩いていった。

 置いていかれたハルトは三歩シノに近づいた時には既に残金について聞くということを忘れていた。まるで鶏だ。


「ハルト、早く」


「はいはい」


 シノは既に部屋の扉を開けており遅れてきていたハルトを急かす。言われた通りに若干速く歩きシノの元に向かった。


 ハルトは部屋に着くと中を見て驚いた。なぜならばベッドが二つも置かれていたからだ。これまで【ヒルアール王国】の宿でもアリアの家でも尽くベッドが一つだった為シノが変な事をしていたのでハルトからすると非常に有り難い配慮である。


 だがベッドが二つある事に対してハルトは有り難いと思っているがシノはどうやらそうは思っていないようでベッドに指を向ける。

 それに気づいたハルトが「何しようとしてるんだ!!」と言ってベッド消滅の危機を救った。


「そう言えば髪飾りはつけないのか?」


「自分じゃつけられない。ハルト、つけて」


 シノはそう言うと屋台を半壊して手に入れた星型の白い髪飾りをコートの中から取り出しそれをハルトに手渡したあとベッドに座った。髪飾りを受け取ったハルトはよりシノに近づき付けようとするがわざとなのかそれとも自然にそうなってしまっているのかはわからないがシノの上目遣いで恥ずかしくなったハルトは一旦離れる。


「つけてくれないの?」


「いや、ちょっと前を向いててくれるか?」


 そして再び髪飾りをつけようとしてシノに近づいたがハルトはそこで股間らへんに熱い視線を感じまたしてもシノから一旦離れる。もう一度離れたハルトに対してシノは一体どうしたの? と言っている様な目でハルトを見つめる。ハルトは「次こそつけるから目を瞑っててくれ」と言って再びシノに近づく。そっと優しくシノの髪に触れながら星型の白い髪飾りをつける。


「どう?」


「似合ってるぞ」


 シノはハルトの返答は期待していたものとは違うようで少しムスッとした表情を見せたが褒められた事の感情の方が強かったようで次の瞬間にはニコニコしながらハルトの事を見ていた。見つめられていたハルトは少し恥ずかしくなったのか目をそらした。


 壁を見ながらハルトは「そうだ。そろそろご飯でも食べるか」と言うとシノは「うん」と返事を返した。宿の近くにはこれといった飲食店はないのだがこの宿には宿泊者の部屋が二階で一階の奥には酒場があるのだ。


 二人は酒場に行くために部屋を出た。


 一階に降りて奥へ向かおうとすると先程の女性が声をかけてきた。


「食事かい? てきとうな席に座って札に書いてあるメニューを見て決まったら声をかけてくれれば行くよ」


「ありがとうございます」


 酒場での説明を聞いた二人は窓のある二人席に座る。周りにはやけにガタイのいい男の人だったり剣を持ってる人だったり女の人だったりと色々な人が酒を飲み交わしながら会話をしていた。


 その中で一つ気になる会話をしている人達がいた。盗み聞きをする気ではなかったハルトだが声のボリュームが大きいせいで自然に聞こえてきてしまった。


「なんか城外の草原で爆発事故があったらしいぜ」


「まじかよ」


「でな、バラバラになった馬車とえぐれた地面があったらしいぞ。しかもその馬車が王城の物だったらしいんだよ」


「人はいなかったのか?」


「あぁ、馬車しかなかったみたいだ」


九神エニアグラムの仕業なんだろうな」


 どうやら男達はハルト達によって起こった出来事について話しているようだった。それを聞いているハルトはもう動揺を隠しきれていなかったが最後の九神エニアグラムの仕業という言葉を聞いて自分達が犯人であるという事がバレていないことを知り少しだけ安堵する。


「何頼むか」


 ハルトは頼もうとしてメニューの書かれた一枚の板をシノが見えるようにして見る。まず飲み物を頼もうかと見ているとさすが酒場と言ったところだろうか、未成年が飲める飲み物が水しかない。ただ未成年だからと言って異世界に来てまで水を頼む気になれないハルトは異世界だし別に大丈夫か! と脳天気な発想をし人生初めてのお酒を頼む事にした。


 一方シノはメニューを見てずっと何を頼むか悩んでいた。しばらく悩んだ末に「これとこれとこれとこれとこれ!」と言ってとんでもない量を選んだ。本当に大丈夫なのかとハルトが聞くと「多分大丈夫」と答えた。


 注文するものが決まったハルトは女性に「すいませーん」と言って呼ぶ。すると女性は他の客の席に酒を置いた後ハルト達のところへ急いでやってきた。「何にするんだい?」と聞かれるとハルトはお酒を二つとシノが大量に選んだ料理を伝える。女性は「えらい食うね」と笑いながら言って戻っていった。


「ハルトお酒飲めるの?」


「前の世界では飲んじゃいけなくて飲んだ事ないんだけどせっかく異世界に来たら飲んでみたいなと思って」


「なら私とお酒勝負しよ。先に酔いつぶれた方の負け」


「別に良いけど」


「私強いから」


「父さんはお酒に強かったから俺も多分強いぞ」


「その意気。かかってきなルーキー」


 シノは自信満々にハルトを挑発するように言ったのだった。








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