異世界は鬼畜でした。〜クラス転移したが唯一スキルなしで見放された俺は最後の魔女と出会い最強に成り代わる〜

丸出音狐

一章

1.異世界は鬼畜だ。

 東雲しののめハルトにとって人生は鬼畜だった。

 普通の高校生とは言えないほどに特技もなければ突出した才能もない。

 さらにはクラスの複数の男子から嫌われるという始末である。


 そんなハルトがいつもの様に教室で一人、席に座っていると謎の強い光が教室中を包み込み次に目を開いた時には異様な光景が広がっていた。それは日本にはないような雰囲気の建物が目の前に建っており周りにはよくわからない人型の何かが連なっている。おまけに辺りは見慣れない街並みだった。


 つまりは……


(異世界ってやつ!?!?)


「ハルト、これって?」


「んッ!? びっくりした、結華ゆいかか。多分異世界とかなんじゃないか?」


 夢にまで見た異世界に来れたことで目を輝かせているハルトの顔を覗き込むようにして声をかけてきたのはハルトの幼なじみの春野はるの結華である。

 結華は学校の中でも一位二位を争うような美人であるうえに優しく元気な性格の為男女とはず人気だ。


「異世界ってよくアニメとかであるやつ?」


「そう、それだよ。転生とか転移とかするやつ」


「ハルトはなんでそんなにウキウキしてるの?」


「べ、別にそんなウキウキしてるとかあるわけないだろ。いきなりこんな所に連れてこられて」


 誤魔化しながらハルトは言うがおどおどしすぎて誤魔化しきれてはいなかった。

 

 そんなことをしているとハルトのもとに学校で最もイケメンと言われさらには運動も勉強も出来る完全無欠の和希かずきがやってきて結華に「大丈夫?」と言いながらさりげなく手に触れようとしていた。しかし結華は「大丈夫だよ」と言って和希の手を振り払う。


 和希は「怖かったら言うんだよ」と結華に言ったあとに何を思ったのか一瞬だけハルトの事を睨み他の友達の所に行った。


 和希がいなくなった瞬間に結華は「うわっ!」と言ってハルトの手を握る。


「なんだよいきなり」


「ハルト、手冷たすぎるでしょ」


「そういうお前も冷たいだろ」



@@



 異世界に来てから五分ほど経過した頃、白を貴重とした法衣を着た長老とその両脇に若い男が建物から出てきてハルト達の元にやってきた。皆の前まで来ると立ち止まり口を開く。


「世界を救う者達よ! よく来てくれた。私はこの国の先代国王クリーデルト・ヒルアールじゃ」


 クリーデルトが両手を上に広げながら大きな声でそんな事を言った。その時南川みなみかわ海斗かいとが陽翔の腕にわざとぶつかってきた。海斗はハルトにとっての数少ない男友達である。


「なぁ、あのおっさん髭ながすぎじゃね?」


「確かにそうだけど口に出すなよ」


「勝手にこんなところに連れてこられたんだから言っても許してもらえるはずだから大丈夫だ」


「はずなのかよ。せめて絶対であってくれ」


 ハルトと海斗がクリーデルトの話しをあまり聞いていないように他の生徒も全く話しを聞いておらずそれぞれの会話を繰り広げていた。それに気づいたクリーデルトは全員の注意を引くために手を叩き大きな音を出した。すると思惑通りみんなはクリーデルトの方を見た。


「皆には近いうちに到来すると言われている九神エニアグラムによる魔の災害からこの世界を守ってもらいたいのじゃ」


 その言葉を聞いた一人の生徒がどうやってそんなことをすればいいのかと問うとクリーデルトの隣にいた男がいくつかの金色の輪がついた杖をクリーデルトに手渡す。そしてそれの答えを語りだした。


 クリーデルトの言っているすべての事をまとめるとこんな感じである。


 この世界には九神エニアグラムという者達によって引き起こされる魔の災害というものがありそれが近いうちに到来するのだがハルト達にはそれから世界を守ってもらいたということ。


 そしてどうやってそんな事をするのかという問いの答えは能力スキルを駆使して戦うとのことだ。


 能力スキルはこの世界特有の力だそうでほとんどの人間が持っているらしい。能力スキルには様々な種類が存在しており日常で役に立つ能力スキル、所謂日常系能力スキルは多くの人がこれを所持しているそうだ。他にも色々あり攻撃系能力スキルや非戦闘系能力スキルがあるようだ。攻撃系能力スキル能力スキルの中でも優劣のつきやすい能力スキルで非戦闘系能力スキルは他者を強化する事が出来る。非戦闘系能力スキルには治癒という大変貴重な能力スキルもあるそうで現在治癒を所持している人はほとんどいないとか。


 説明を終えたクリーデルトは杖を二度地面に強く叩きつける。すると皆の目の前に水色の板の様な物が現れた。これは何なのかと皆がざわついているとクリーデルトが騒ぎをなだめるように話し出す。


「そこに表示されているのがお主らの能力スキルじゃ。もちろん装備や武器、生活の好待遇は保証するぞ」


 周りでは自身の能力スキルを言い合いで盛り上がっていた。


「えー和希くんの能力スキル、【聖剣】なの!? 凄いやつじゃん!」


「そうなのかな。僕はこういうのよくわからないからな」


 一方結華はハルトの隣ではしゃいでいた。


「見て見て! これ良いやつじゃない!?」


 結華の所には【治癒】と書かれていた。つまりは非戦闘系能力スキルである。

 海斗の所には【超身体能力向上】と書かれていた。これは自身を強化する事は出来るが他者を強化することは出来ない。ということは海斗は戦闘系能力スキルである。


 周りではどんどん能力スキルが明らかになりはしゃいでいるがハルトははしゃがず表示されているものをずっと見つめていた。ハルトの様子が変だということに気づいた海斗は「どうしたんだよ?」と声をかけるが全くもって反応がない。その後も反応があるまで呼びかけているとようやくハルトは海斗の声に反応した。


「悪い。なんだ海斗?」


「なんだじゃないだろ。そんなにボーっとしてどうしたんだよ」


「いや実は……俺の能力スキルがないって……書かれてるんだ」


 ハルトの言った言葉に驚いた海斗と結華は体を寄せてそれの真偽を確認する。しかし結果はハルトの言った通りのものだった。


 落ち込むハルトを励ますように結華が「きっと大丈夫だよ。何か力があるはずだから」という。異世界という現実とは異なる世界でワクワクの気持ちもあったハルトだがやはり能力スキルがない状態で知らない世界で生きていくという事を考えた時不安でいっぱいになりつい「俺、こんなんで異世界で生きていけんのかな。死ぬんじゃ……」と言ってしまった。


 それを聞いた結華が「そんなこと言わないで!!」と本気になって怒る。とっさにハルトは「ごめん」と謝った。


 ハルト達の空気が悪くなってしまったところでクリーデルトがタイミング良く話しを始める。


「皆確認出来たと思うがこれから必要な物を各自選んでもらって早速特訓をしてもらいたいのじゃが」


 クリーデルトがそういうと両隣にいる男がハルト達をどこかに案内しだす。



@@



 あの後案内されたのは倉庫のような場所だった。そこには様々な装備や武器が並べられておりそこから好きなものを持っていっていいとのことだった。


 みんなそれぞれの能力スキルにあった装備や武器を選ぶと筋肉ムキムキの男が突然現れハルト達を訓練場へと連れ出した。


「今日からしばらくお前らの訓練を見るダリアだ。よろしくな。まずぱっと見で戦闘系能力スキルを持ってるやつは俺のところにそれ以外の非戦闘系とかはあっちのサリアの方に行ってくれ」


 能力スキルがないハルトだったがなんとなく海斗と一緒にダリアの方に向かった。


「ほんじゃ、能力スキルはこうなんか一点に集中させるイメージを持ってやるといいぞ。とりあえず好きなようにこれ攻撃してみろ」


 ダリアにそう言われ皆は一人一つ目の前に置かれている石で作られた人形に向かって能力スキルを使用し始める。

 

 真っ先に人形を壊したのはやはり完全無欠の和希だった。和希の聖剣はもはや無音に近いレベルで人形を切り裂いていた。そのスゴ技にダリアの方にいる一部の女子とサリアの方に行った女子何名かが黄色い歓声をあげていた。


(はぁ……。なんで俺には能力スキルがないんだよ。こんなんじゃ絶対無理だろ!)


 ハルトは怒り任せに剣を人形に向かって振った。すると結果は察しの通りハルトの腕は痺れ剣が地面に落ちてしまった。ハルトは能力スキルもないのに剣の才能もないとなれば一体どうやって生きていけばいいのだろうか、いっそ違う所に……とついまた考えてしまう。


 そんなハルトに追い打ちをかけるかのように和希の取り巻きがハルトの事をいじりだす。


「おいおい東雲、なにやってんだよ。こっちでも才能なしか??」


「やめてやれよ。気にしてるかも知れないだろ」


「ほら皆、東雲君をいじめるのはよくないよ。それに才能は人を選ぶからね」


(その守ってるようで一番攻撃してくるのをやめろ)


 ハルトは落ちた剣を拾ってその剣を見つめながらため息をつく。


(本当に俺は皆と一緒に世界を救えるのか…? 能力スキルがないのに何が出来るんだ…)


 ハルトは心の中で叫ぶ。


(異世界は鬼畜だぁぁぁああ!!!!)





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