駒井舞音は広告になりたい。
world is snow@低浮上の極み
高級カフェの窓際席
第1話 ショーウィンドウのあるカフェ
服飾、時計、香水、宝石。
あらゆる高級ブランドが軒を連ねる、ここラフィニ通り。
大理石の建造物には光沢を帯びたブランドロゴが掲げられ、石畳の上には洗練されたファッションに身を包んだ紳士淑女が行き交う。
ドレスにバッグ、アクセサリー。華麗な衣装を纏ったマネキンたちが、各店のガラスの内側で今日も己の美を主張する。
そんな街並みの一角に、そのカフェはあった。
純白の外壁に黒い飾り文字で記された店名は、Cafe Boutique.
ここには、優雅な買い物を楽しむ人々が、束の間の休息を求めて訪れる ―
◇ ◇ ◇
その日、偶然この通りを訪れていた
そこには二人がけの丸テーブルが三つだけ並んでいた。それ以外の客席の様子は、チラリとも垣間見ることができない。というのも、その三席すぐ後ろには壁が立っており、店内の様子をすっかり覆い隠しているのだ。雪のように白いその壁には、おしゃれなフォントでカフェのロゴが描かれており、さらに各テーブルの周りには、植物を模ったモノクロ色調の装飾品まで置いてある。
カフェというよりは、まるで服屋のショーウィンドウのような風景である。
そんな一風変わった窓際席の左端には、女性客が一人座っていた。年齢は二十代後半ぐらいだろうか。落ち着いたワインレッドのオフショルダーに身を包み、茶色い髪を後ろでまとめている。アンニュイな表情でコーヒーを嗜むその姿は、美しく着飾った高級店のマネキンが、意思を持って動き出したかのようだった。
さながら、生きたショーウィンドウ。
舞音は魅入られたように、その光景の前に立ち尽くした。女性客のまとうオーラと、ディスプレイのような店内装飾が相まって、舞音の心を未だかつてないほどの非日常的な感覚が襲う。
ガラスの内側で、オフショルダーの女性がコーヒーカップを傾けた。その一挙一動に、舞音の視線は釘付けになる。その光景から溢れる美に、全神経が沸き立つ。
ふと、窓際席の女が舞音に視線を向けた。
交差する二人の視線。
女はカップを口から離すと、優美な微笑を浮かべた。
まるで舞音を誘い込もうとするかのような、魅惑的な笑みだった。
彼女は雷に打たれたかのような衝撃を受けた。
一度でいい。
一度でいいから、自分もあの窓際席に座ってみたい。
気づけば舞音は、心の底からそう願っていた。
それこそが、駒井舞音がCafe Boutiqueに足を踏み入れたきっかけである。
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