第19話 魔法少女と別の悪の組織

 「え、誰」


 マジカルイエローがこの場の全員の疑問を代表して問う。


 平日の昼間。


 いつ雨が降り出すかもわからない頃合いにて、普段より人気のない公園に、善と悪の戦いが繰り広げられようとしていた。


 いや、終わっていた。


 つい数分前まで、魔法少女<マジカラーズ>と悪の組織<ジョーカーズ>の戦闘員たちによる戦闘は、ぐだぐだというかたちであったが、終わりを向かえていた。


 そんな時に現れた別の怪人二人組。


 一人は肩幅一メートルを越える肩パッドが特徴の怪人で、もう一人は外套に身を包んでいるが、筋骨隆々とした怪人であった。


 マジカルブルーがそんな二人を指さしながら言う。


 「新手? 今までに無いパターンね」


 「違うわよ。うちとは別の組織の連中ね」


 「別?! 悪の組織って<ジョーカーズ>以外にもあるんですか?」


 「あ、あなたたちだって巨大ロボで戦うヒーローとか、仮面着けてバイク乗り回すヒーローとか色々とあるでしょ......」


 正論である。悪の組織だって一つだけじゃないのだ。


 魔法少女たちの疑問に応えたのは肩パッドの怪人であった。


 「そ。俺らは<ギャンギース>から来た怪人だ。俺は怪人肩パッドマン。こっちのデカいのは怪人ピンクガネーシャ」


 「名乗ってもらったのは助かるけど、お呼びじゃないの。悪いけど、他所の怪人は帰ってくれないかしら?」


 などと、冷たい対応を取るカマキリ女帝。


 彼女の脳内では、例の情報が呼び起こされていた。その情報とは、他所の怪人がこの町に来て、戦隊ヒーローたちを探し回っているという内容だ。


 まさか魔法少女たちと戦っている所で遭遇するとは、思っても居なかった女帝であった。


 無論、女帝はスザクファイヤーが眼前の怪人に負けたことを知らされていないから、組織の中で最初に接触したのが自分たちだと考える。


 相手は悪の組織の戦闘員。この町で他所のヒーローたちと戦闘を繰り広げられたら堪ったもんじゃない。この町は魔法少女<マジカラーズ>と悪の組織<ジョーカーズ>の舞台だ。


 故に女帝は嘘を吐く。


 「情報が入ってきてるのよ。生憎と、この町にはあななたちが探しているヒーローは居ないわ」


 「ぷっ」


 「......何がおかしいのかしら?」


 「いやだって、昨晩、<獄炎>が似たような対応を取ってたからさ」


 「っ?!」


 「なに、おたくの組織は上からそう指示されてるの? 俺らには嘘でも吐いて、軽くあしらっとけって」


 肩パッド野郎の言葉を聞いて、カマキリ女帝の顔が驚愕に染まる。


 (昨晩、スザクファイヤーさんがこいつらと戦った? でもそんな話聞いてないわ)


 もう昼過ぎもいい頃合いだ。それなのに、昨晩の出来事が現場まで話が回って来てないことに、カマキリ女帝の不安は積もる一方であった。


 考えられる可能性は――スザクファイヤーが意識不明の重傷を負ったか、殺害されたか。それなら本人から報告が来ないのも頷ける。


 まさか四天王を倒す存在が現れるとは。


 女帝は無意識に普段よりも低い声音で問う。


 「......まさか殺したの?」


 その問いに、肩パッドは邪悪な笑みを浮かべて答える。


 「さぁ? 身体中穴だらけだったから死んじゃったかも? 最期まで見届けなかったから(笑)」


 瞬間、怪人カマキリ女帝は肩パッド野郎の下まで駆けた。


 あっという間に距離を詰めて、鋭利な大鎌を肩パッド野郎の首に当てた。その刃を少し引くだけで、肩パッドの首は噴水の如く血を撒き散らすだろう。


 「「「っ?!」」」


 その動きに驚いたのは魔法少女たちも例外ではなかった。


 自分たちと戦っていたときとは比べ物にならないほど素早い。気づいた時には、見知らぬ怪人の下まで駆けていたのだから、もはや別人のように思えてしまった。


 怪人カマキリ女帝は問い質した。


 「うちを敵に回す気?」


 そのなみなみならぬ覇気に当てられるも、肩パッド野郎の顔に焦りは見えない。


 「そっちが虚偽の情報を提示してきたのが先だ」


 「すぐにこの町から去りなさい。首を縦に振らなければ......その首を落とすわ」


 カマキリ女帝の大鎌が肩パッド野郎の首筋に当てられた――そう思われた時だ。


 「おお、怖い怖い。でもその刃じゃ俺の首は落とせないよ」


 「は? 何を言って――」


 「なんせもう既に――俺の肩パッドが刃と首の間に挟まってる」


 「っ?!」


 一メートルを越える肩パッドが、カマキリ女帝が振るった大鎌と肩パッド野郎の首の間に差し込まれていた。


 ガキンと鋼鉄の鎧で防がれたように、女帝の鋭利な刃がその先に進まない。


 「いつの間に――」


 「ははッ!」


 怪人肩パッドマンが拳を作り、カマキリ女帝女帝の腹部に叩き込んだ。


 「がはッ!」


 「まだまだぁ!」


 腹部に強烈な一撃を食らい、前屈みになった女帝の顔面にアッパーパンチ。そして回し蹴りで遥か後方へと吹っ飛ばす。


 「「あ、姉御ッ!」」


 すぐさま下っ端戦闘員二名が女帝の下へ向かった。


 「だ、大丈夫ですか?!」


 「ぐッ。あの強さ......スザクファイヤーさんを倒せたのも頷ける......」


 「い、一旦、退きましょう!」


 「お。結構強めの入れたのに、まだ喋れるのか。いいね。なら、これならどうよ?」


 「「「?!」」」


 怪人肩パッドマンが頭上に掲げた手から、漆黒の光を収束させている様を目にした。それはやがて球状を成していき、見る者全てに恐怖を与えた。


 あの力の収束がいったいどれほどの破壊を生み出すのだろうか。想像するのはそう難しいことではなかった。


 そしてそれは<ジョーカーズ>の面々に放出される。


 「っ?! あなたたち! 私の後ろに――」


 女帝が呼びかけたとほぼ同時に着弾。平和な町の公園に爆発が生じた。


 激しい一撃により、辺り一帯に立ち込めた土埃が霧散した後、そこには<ジョーカーズ>の面々が倒れ伏していた。


 「やっぱり弱いな~」


 「......おい、こっちの魔法少女はどうする」


 今まで黙っていた巨漢が口を開いたことで、肩パッド野郎の意識は魔法少女たちに向けられた。その視線に、少女たちは息を呑んだ。


 マジカルブルーが仲間に小声で話しかける。


 「ど、どうする?」


 「やるしか......無いよ」


 「だ、だよね。こんな危ない怪人を放っておけないし」


 魔法少女たちは各々の魔法のステッキを持ってかまえた。


 その様子を見て、怪人肩パッド野郎がニヤリと笑う。


 「俺らの目当てのヒーローじゃないけど、正義の味方なんだ。潰しておこうか。あそこに転がっている不出来な同業者に代わってさ」


 この物語は、平和な町の行く末を賭けた善と悪の戦いを記す物語である。


 続く。

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