第15話 悪の組織の戦闘員とよそ者

 「ちーっす。ちょっとそこの鳥さんに聞きたいことがあるんですけどー」


 とある日の昼下がり。


 どんよりとした雲行きの下、怪人スザクファイヤーはコンビニにて昼食を買って帰路についていた。成人男性の平均身長を上回る巨大な鶏が、町で普通に買い物をしていてもなんら問題視されないほど、この町は平和だった。


 そんな鶏が人気のない路地を歩いていると、後ろから声を掛けられたのである。


 声を掛けてきた者は二人組の怪人だった。


 一人は肩パッドが目立つ、如何にも強そうな怪人で、その肩パッドがもたらす肩幅は尋常じゃない。全幅は優に一メートルを越える。


 もう一人はスザクファイヤーの巨体と同等のサイズの何かであった。“何か”というのは、その巨体が頭から膝下まで覆うほどの外套を纏っていたからである。



 (この人たち、<ジョーカーズうち>の職員じゃないな)


 そして怪人スザクファイヤーは察する。


 眼前に立つ者たちが、例の件――怪人定例で報告に上がっていた、他所の地域を担当する闇組織の戦闘員たちだと。


 怪人スザクファイヤーは平然とした様子で対応することにした。まさか無視するわけにもいかない。


 「聞きたいこと? なに?」


 「鳥さんってここの地区を担当している組織の人っしょ?」



 「俺が怪人だってよくわかったね」


 「どっからどう見ても怪人でしょ」


 どっからどう見ても怪人である。


 「最近、この辺に見ない顔のヒーローが現れなかった? 戦隊ヒーローで<チホーレンジャー>って言うんだけど」


 やっぱり。そう確信したスザクファイヤーであった。


 ちなみに<チホーレンジャー>がこの町に居ることは上層部から黙っていろと命じられている。でなきゃ組織が早々に情報を、目の前の怪人たちが所属する組織に流しているはずだ。


 そうしない理由は......この町を戦場にしてほしくないからである。


 言うまでもないが、この町は魔法少女<マジカラーズ>と悪の組織<ジョーカーズ>が戦ってなんぼの町だ。よそ者が来て戦いの舞台にするのは勘弁してもらいたい。



 故にスザクファイヤーは嘘を吐くことにした。



 「知らん」


 もうちょい言葉を選んだ方が良い気がするのは言うまでもない。


 怪人スザクファイヤーは続けた。


 「というかさ、まず自分たちのことを名乗ったらどう? 社会人としていきなり要件から聞くってどういうこと?」


 悪の組織の戦闘員がなんか言ってる。


 紛うことなき反社の域に居る者だろうと思われるスザクファイヤーだが、組織だって色々とあるのだ。まず間違いなく、秘密結社<ジョーカーズ>の怪人がこのような失礼極まりない行為に走ったら罰を受けるだろう。


 それこそ、説教タイツのショータイムレベルで、だ。


 「せめて名刺の一つくらい――」


 と、スザクファイヤーが言いかけた時だ。



 「ウザ(笑)」



 ズドン。



 怪人スザクファイヤーの胸から背にかけて漆黒に輝く光線が駆けた。



 「?!」



 突然の不意打ちに、スザクファイヤーは地に片膝を着けた。


 「同じ怪人だから優しく接してやったのによぉ」


 「て、てめぇ、いきなり何しやがる」


 「ひゅ~。タフだねぇー」


 肩パッドの怪人が弱ったスザクファイヤーを嘲笑うようにして見下ろす。そんな馬鹿にした様子の相手に、スザクファイヤーは四天王のプライドの力で立ち上がった。


 「こんなことしてタダで済むと思ってんのか?」


 その声にもはや普段の気の抜けた雰囲気は無い。怒気と殺気で満たされた声音に肩パッド野郎は若干たじろぐ。しかし表にはそれを出さずに言ってみせた。


 「おいおい。あんま無理して立たない方がいいよ。かなんだか知らないけど、雑魚戦闘員なんだからさ」


 「?! 俺を四天王だと知って襲ってきたのか?!」


 肩パッド怪人の言葉に、スザクファイヤーが驚愕する。まさか他所の組織の戦闘員、それも四天王という幹部の中でもトップに存在する者に喧嘩を売るなど、もはや愚行にしか思えない。


 「知ってるよ。秘密結社<ジョーカーズ>、<獄炎>の二つ名を持つ怪人スザクファイヤー......正直、期待外れだけどね」


 「き、期待外れ......だと?」


 「だってそうでしょ」


 肩パッド怪人がそう言った時だ。


 突如、スザクファイヤーの背後に現れた者が、巨大な鶏の両羽を丸太のように太い腕で押さえ込むようにして掴みかかってきた。


 その者は肩パッド怪人の横に立っていた謎の巨大生物だ。


 「?! い、いつの間に!!」


 「はッ。怪人業界も弱くなったもんだよ、あんたみたいな雑魚が四天王を名乗るなんてなぁ」


 「は、放せッ、この!」


 怪人スザクファイヤーがばたばたと身をばたつかせるが、巨体の怪人からは逃れることはできなかった。


 そんな様を馬鹿にするように肩パッド怪人は指先をスザクファイヤーの腹に向けた。



 「さて、怪人らしく非道に走ろうじゃないか。四天王なんだ、そう簡単に音を上げるなよ?」



 肩パッド怪人は下卑た笑みを浮かべながら、漆黒の光を指先に収束させるのであった。



*****



 「これからどーすっかな~」



 肩パッドの怪人は夜空を見上げながら呟く。


 傍らには血まみれの巨大な鶏――怪人スザクファイヤーが倒れ伏していた。


 「結局、最期まで話さなかったし、そこら辺は評価しないとね~」


 そんな怪人の言葉に、この場にもう一人居る怪人が問いかける。その声は低く、決して穏やかなものではなかった。


 「次の町に行くか?」


 「いや、もうそれ何回も繰り返しているし、上の連中はこの町に居るって見ているみたいだよ」



 「ならば他の怪人を襲うか?」


 「それもなぁ......」


 あ、そうだ。と何か思いついたかのように、肩パッドの怪人が手を叩く。


 そして宣言した。


 「少しばかし、この街で暴れようか。怪人らしく......ね?」


 「ほう。ヒーローあちらから出向いてもらうという訳か」


 「そそ(笑)」


 ――秘密結社<ギャンギーズ>。


 秘密結社<ジョーカーズ>とは異なる闇の組織がこの町の平穏を脅かそうとしていた。


 続く。

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