2章 Ⅱ

「貴方たちはその、義勇兵ではないのですよね?」


 リーレルが暖炉に薪をくべながらそう俺に質問した。

 この地域は夜かなり冷え込むらしく、俺とアズサとリーレルさんは暖炉の前で団子のようになっていた。この世界には当然家電製品などなく、こうやってアナログなもので寒さに耐えしのぐしかないのだ。こうやって温まっていると、お互いの肌が近くとても、いい気分になる。


「義勇兵っていうのはなんですか?」


 俺はほんわかした気持ちの中リーレルさんの質問に質問で返す。


「義勇兵は義勇兵なんですけど・・・。傭兵のようなものです。個人で酒場やギルドに張り出されるクエストを受注して報酬を得る。それを生業とする兵士ですね」

「なるほど、つまり自営業型の兵士と。それは誰でもなれるものなんですか?」

「もちろん。ただ義勇兵教団に登録しないといけなくて、それには登録料と技能資格がいりますね」


 おやおや、これはまた面倒な話になってきた。資格に金だと? ただでさえ高校の資格に落ちまくる生徒会長と、文無しの俺たちだ。いきなり降ってわいた仕事だが壁が反り立つ。


「ちなみに登録料というのは、おいくらくらいで・・・?」

「そうですね・・・。今の相場だと高騰してまして、1000くらいですかね・・・?」


 1000円か。割と良心的な値段に俺はほっと胸をなでおろす。


「技能資格っていうのもすぐとれるんですか?」

「はい。魔物と闘うにあたっての基本動作や知識を学んで、課される試験に合格する。大体1か月くらいでとれると思いますよ。いろんな技職(クラス)がありますからね、それによっては時間がかかるものもあります」


 優しくレクチャーしてくれる彼女はニコッとはにかんでくれる。かわいいなぁ、結婚を前提に付き合ってくれないかなぁ。と思いつつ俺は1つ妙案を思い浮かべる。


「リーレルさんに弟子入りすることもできるんですか?!」

「あー、えっと。資格を付与できるのは国から選定された1級義勇兵からのみになりまして・・・。私は2級なのでそれはできないんですよ。すみません」

「そう、なんですね」


 俺は露骨にがっかりしてしまって、リーレルさんに心配されてしまう。

 彼女は見たところ定石通りの騎士といった感じだ。さっきの剣捌きを見ても彼女の腕は立つほうなのだろう。これで2級だなんて、この世界の国家はどれだけ厳しいのだろう。


 それからもリーレルさんから色々貴重な話を聞けた。彼女が住んでいるのはこの近くにあるグランという街らしい。地形も俺が知っている日本と同じ気候でとても住みやすいのだそうだ。義勇兵ランクは4から1まであるらしく、この世界に特別な待遇としてゼロも存在するらしい。

 確かに、姫川が設定しているところを見た記憶がある。


『ゼロ、この地点に到達した人間は歴史上10人しかいないのだ。その名もテンペスト・ゼロ。これはな! 10人とテンペストのテンを掛けていてな! そして称号のゼロを付け足すことでエモさと特別感を兼ね備えていてな! それでそれで』

『どうでもいいけどパンツ見えてるからな。女子ならある程度気をつけろよ』

『・・・っ。あ、ありがとうございます』


 こんな会話、あったなぁ・・・。ダサいネーミングセンスに全然上手くない韻を踏んでいたのに寒気を覚えた。リーレルさんの口からテンペスト・ゼロのワードを聞いた時は危うく噴きそうになっていた。あいつも中二病ならそれらしく突き通せよな。パンツ見られたくらいで説明端折るなよ。今となってはそれが悔やまれる・・・。


「グランに私の行きつけの宿屋があるので紹介しましょうか? 1泊分の料金は恐らく免除してくれると思いますよ。私がそうだったので」

「そうなんですね! じゃあ明日はそこに向かってみるとします。リーレルさんも明日はグランに帰られるんですか?」

「あいにくまだクエストの途中なんで・・・。明日の夜には帰りますけど、先に向かっておいてもらって構いませんよ。申し訳ありません」

「そんなそんな! 俺たちみたいなどこの馬の骨とも知れない輩にこんなにも親切にしてもらって、逆にありがとうございます」

「そう言ってもらえると嬉しいです」


 暖炉の炎がリーレルさんの頬をオレンジに染めている。

 ああぁ。マジで好きになっちゃいそう。アズサは置いてもうこのままリーレルさんについていっちゃおうかな。こいつの図太い神経なら俺がいなくても生きていけるだろ。いつまでも周りうろちょろされても鬱陶しいし。


「私はもう寝ますね、それじゃあまた明日」

「あ! じゃあ、また明日」


 唐突なお別れに俺は語尾を悲しませたように小さくさせる。楽しい時間はあっという間というが、こんなにも幸せなひと時を味わったのは人生でも初めてかもしれない。


 そんなさなか、隣では座って寝ているアズサが寝言をぼやいているようだ。


「んんん・・・そんなに食べられないって・・・」


 こいつはなんでこんなにも幸せそうな顔で寝ているのか、そして寝言までもがなぜそこまでテンプレじみたセリフなのか。


「翔太・・・」


 俺の夢を見てるのか・・・。まぁ、こいつもなんだかんだ寝顔は可愛いんだよな。どんな夢見てんだろう、黙ってればいいやつなのに。夢でも俺が出てくるって、どんだけ俺の事好きなんだよこいつは。


「へっくしょんっ!」

「だああぁ?! 俺の制服が鼻水だらけに!! とっとと起きろアホたれが!? よくみたらよだれまでついてんじゃねぇか・・・?!」

「いいじゃない少しくらい細かいわね・・・。ふぁあぁ、それだから下級生の子にロリコンだとかセクハラ会計係とか言われちゃうのよ」

「少しくらいの量じゃねぇし! というか待て待て、俺後輩たちからそんなこと言われてんのか!? 何だよロリコンって! セクハラなんてした記憶ないんですけど!?」

「うるっさいわねぇ。あっちで横になるから静かにしてて」

「おい待てまだ話は終わってねぇぞ、詳しく聞かせろ!」

「仲がよろしいようで、羨ましいです」

「リーレルさん?! そんなよく漫画である天然ボケみたいなこと言われても困るんですけど! 

 そんな微笑ましい聖母のようなまなざしでこっちを見ないでください!! お願いですから!!」


 俺は一体いつになったらこいつから解放されるのか。

 よく漫画で見る幼馴染属性なんて言葉、俺からしたら永遠に縁遠いものなんだろうとしみじみと感じた。


 その晩、結局俺はアズサの寝言でまともに睡眠をとることすらできなかったのだった。

 世知辛い・・・。今日一日、よく頑張ったな! 俺・・・!!




























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