煌びやかなお城でレスバするやつ(???視点)
「はぁ~? 顔真っ赤にしとるのは貴様じゃろうが! わらわはキレとりゃせんわ! わらわの顔見れるんか!?」
広々とした部屋に、暗紫色の壁紙。所々に金の装飾が施されており、部屋の中央には黒く丸いテーブルが置かれている。その上には開きかけの書物や、中途半端に中の残った水差しが置かれていた。
天井からは魔力の籠ったクリスタルを加工したシャンデリアが煌めき、この広々とした部屋を幻想的に照らしている。
そんな部屋の隅に、大きな机とその上に置かれている細い脚で支えられている四角く薄い板と、何か細かく文字の書かれた四角いボタンのようなものが配置された板の前に座る一人の女性の姿があった。
真紅の長髪に、紫紺の瞳。ねじくれた漆黒の角を頭の左右から一本ずつ生やし、スラリとした体形と大きな胸を浮き上がらせる部屋着用のドレスを着ている。
「それって貴様の感想ですよね? ハイ論破~!」
ボタンがたくさん配置された板上のものをバチバチと指で叩きながら大きな声を上げる女性。
「エリシーディア様。いい加減お休みになってください」
彼女の近くに控えていたメイドから声をかけられた女性――エリシーディアは、その芸術品のように整った顔を台無しにするような血走った目でメイドの方に顔を向けた。
「まだじゃメルティ! まだこやつをわからせられておらん! もっと徹底的にする必要があるわ!」
怒りで顔を真っ赤にしているエリシーディアを見ながら、メルティと呼ばれたメイドはため息を吐いた。
結い上げた黒髪に、フレームレスの眼鏡。黒と白と基調としたドレスは体全体を覆っていて、首から上しか肌が見えている部分がない。メルティの腰のあたりからは一本の太いトカゲのような尻尾と、一対の黒い羽が生えていた。
「魔王ともあろうお方が、ネットの掲示板のレスバで顔を真っ赤にしてどうするのですか……」
「はぁ~!? 真っ赤に等なっておらんし!?」
「鏡を見てください、鏡を」
『物を取り寄せる魔術』を発動したメルティは、近くにあった手鏡を取り寄せエリシーディアに向ける。その鏡には、メルティに指摘されたとおりに顔を真っ赤にしたエリシーディアが映っていた。
「……確かにわらわの顔は真っ赤になっておるかもしれんが、これは別に怒りで真っ赤になっておるわけではないし!」
「ではなんだというのですか……」
再びため息を吐いたメルティは、今度は『部屋の明かりを消す魔術』を発動した。煌々と部屋を照らしていた魔王城謹製のシャンデリアから光が消えうせ、部屋が一瞬にして暗くなる。
「ほら、部屋の電気も消えましたし、早く寝てください。明日もお仕事があるでしょう?」
「いや、でも、まだこのケイを馬鹿にした愚か者の論破が――」
「いい加減にしてください。あまり言うことを聞いてくださらないようでしたら、パソコンのコンセントを抜きますよ?」
「そ、それだけはやめてくれ! わらわのパソコンの中身が吹っ飛んでしまうではないか!?」
メルティの言葉に、机の上に置いてある黒い箱をかばいながら涙目になるエリシーディア。
「ほら、それが嫌なら早く電源を切って、そこのキーボードも片付けてください」
「くうぅ……メルティは容赦が無さすぎる……」
エリシーディアは泣く泣く机の上のボタンがたくさん配置してある板――キーボードをしまう。
「わらわの推しの配信者――新人metuberケイを馬鹿にしたやつをわからせる必要があったというのに……うう……すまん異世界ニキ……いやわらわたち同じ世界におるから異世界ニキではないが……」
「何ブツブツ言ってるんですか。あんまりわがまま言ってると明日からネット禁止にしますよ?」
「おやすみなさーい!」
神速のごとき勢いで寝室に走っていくエリシーディアを、呆れた表情で見つめるメルティ。これが彼女たちの日常で、少し前からちょっとだけ変わった日常でもあった。
聖女と勇者が現れるきっかけとなり、魔物の活動が活発になった原因とも言われている魔王。
古くから人類と争っている魔族の頂点にして、人類の敵と称されるモノ。
今代の魔王エリシーディア。
インターネット掲示板のレスバトルに負けて顔を真っ赤にしていた彼女が、人類が恐れる魔王エリシーディアだった。
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