インターネットってなんだよ
「インターネットってなんだよ」
夜の森で一人、俺は呟いた。
リリーとエルウィンの結婚報告を聞いてむせび泣いていた俺の耳元で、突如知らない声が「Welcome to Underground」と囁いてきた。その直後に俺に謎の力「インターネット」が宿った。
何を言っているのかわからないと思うけど、俺も自分が何を言っているのかわからない。インターネットって何。
あんまりにもいきなりな出来事で、泣いていた気持ちが一時的に吹き飛んでしまった。
インターネットとか聞いたことないんだけど。何ができるのこれ。ていうかいきなりなんか知らない力が使えるようになるって怖くね。俺に何が起きたの?
俺、幼馴染の恋人をもう一人の幼馴染に取られたばかりの哀れな男ですよ。一人森でむせび泣くことしかできなかった負け犬ですよ。
――うっ……自分で言っててまた悲しくなってきた……。
リリー……なんでエルウィンと結婚なんて……。兄は何をやってるんだ? 黙ってみてたのか? ……いや、そうだよな。惚れた腫れたの男女関係に首突っ込むなんて普通嫌だよな。俺とリリーは確かに恋人同士だったけど、婚約してるわけでもなかったし。
……いや、いや。もう止めよう。今は別のことを考えよう。インターネットのこととか。
「そもそもインターネットってなんだ? どんな効果なんだ? いつ発動するんだ?」
さっぱりわからない。
なんか頭の中にもやもやと思い浮かびそうな何かはあるんだ。何かはあるんだけど、それがうまいこと形にできないというか。
もう一歩何かあれば掴めそうな気がするんだけど、そのもう一歩に何が必要なのかわからない。
「どうしたらいいんだ……?」
夜の森に一人。
さっきまで泣いていたこともあってなんだか寂しく感じてしまい、つい独り言が多くなってしまう。
そもそも「Welcome to Underground」ってどこの言葉なんだ? 咄嗟のこと過ぎて翻訳魔術も発動できなかったし、全く意味不明すぎる。
――あ、そうか。
インターネットって言葉が頭にそのまま浮かんできてるから考えてなかったけど、インターネットっていう言葉が外国の何かの単語ってこともあり得るのか。
「だったら翻訳魔術を使って……」
インターネットを翻訳してみれば――
「……えっ、なんだこれ。インターネットの使い方がめっちゃ頭に流れ込んでくる。こわいこわい。何それ知らん怖いって!」
インターネットという言葉に翻訳魔術をかけた瞬間、俺の頭の中に能力としての「インターネット」の使い方が流れ込んでくる。俺の知らない知識が濁流のごとく押し寄せてきて、思わず両手で頭を押さえてしまう。
「うぉぉ……! 静まれ、俺のインターネットぉ……!」
そうやって森の中で一人、俺はしばらくの間悶えていたのだった。
今、俺の手の中には四角い板みたいなものが握られている。
長方形で、厚みは結構薄い。なんか金属でできてるような部分と……なんだろうこれ、ガラスじゃないけどなんだかすごいつるつるしてる部分でできてるところがあって、不思議な構造をしている。
人生で一度も見たことのないその不思議な板みたいなものは、俺の能力「インターネット」で作り出した「スマートフォン」と呼ばれるものらしい。
なんか「アプリケーション」とかいうのを入れて使えたり、「ウェブ検索」とかいうのができたりするらしい。そして、それらの能力を使うために必要なのが「インターネット」の「回線」というらしい。
らしいらしい言ってるけど、俺もまったくもって確証が持てるわけじゃないから仕方ない。俺のこの知識はさっきいきなり流れ込んできた「インターネット」の知識によるものだから、何が本当なのか全くわからない。
「えーと……? このスマートフォンとかいう板の横についてるボタン? ……この細長くてちょっと出っ張ってるところか。これを長押しすると電源? がつく? ……電源ってなんだ」
頭の中に浮かぶスマートフォンの使い方を反芻しながら、ボタン? っていうやつを長押しする。長押しってどれだけ押してればいいんだ?
なんて思ったのもつかの間、ほんの少し待っただけでいきなり真っ黒だったスマートフォンが白く輝きだした。
「うわ眩し! え、なにこれ。これが電源がつくってやつか!?」
光り輝くスマートフォンに何か記号のようなものが浮かび上がる。
うおおおなんだこれ! 何かの魔術が動いてんのか!? さっぱり仕組みがわかんねえ!
「……ん? もしかしてこの記号みたいなやつ、何かの文字か?」
『Hello』と浮かんでいる記号に、慌てて翻訳魔術を発動する。さっきは自分の頭の中の単語に直接魔術をかけたけど、これだと単語一つ一つにいちいち魔術をかけなきゃいけないから効率が悪い。
だから俺はとりあえず手に持っているスマートフォンに翻訳魔術をかけた。
「Hello……こんにちは? 挨拶の言葉か?」
やっぱり文字だった。
「とりあえず……こんにちは?」
挨拶されたら挨拶を返すのは基本だしな!
なんてことをしながら、俺はスマートフォンの操作を進めていくのだった。
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