超高性能人感AIのレストラン
ちびまるフォイ
人間らしい突破口
近所に新しいレストランができたので入ることに。
なんとここはすべてAIで管理されているという。
「ハイテクだなぁ」
入り口のタッチパネルにふれる。
『何名でご来店ですか?』
「1名です」
『1名様ぶんの食事が用意されました』
「はや!?」
すでにテーブルには食事が出来上がっている。
これが未来のレストラン。待たせることもないのか。
「おいしそう! ようし食べるぞ~~!」
案内されたテーブルに向かうときだった。
正面のカメラが警告音を鳴らす。
『ビー!ビー! 人間として判定されました! 食事を片付けます!』
リアクションとる暇もなく、さっきまで湯気を立てていた1人分の食事はテーブルへ吸い込まれていった。
「うそ!? まだ食べてもないのに!?」
『この店は人間の来店を禁止しています!
おひきとりください!』
「ひえええ!?」
あっという間に店からつまみ出されてしまった。
脳裏には食べそこねた食事がまだ残っている。
「くそ……こうなったら絶対に食ってやる」
ふたたびタッチパネルに触れる。
『何名でご来店ですか?』
「1名です」
『1名様ぶんの食事が用意されました』
用意されるやいなや猛ダッシュ。
カメラに「人間」だと認識されるよりも早くテーブルの食事を奪取すればよい。
これでも昔はアメフトで全国大会にーー……。
『ビー!ビー! 人間として判定されました! 食事を片付けます!』
「あああ! 早いって!!」
テーブルに手が触れる前に食事は片付けられてしまった。
仮にオリンピック選手であっても間に合わないだろう。
食べれないとなると、ますます食べたくなってしまう。
「おのれAIめ。人間さまを超えられないってことを見せてやる」
今度はいったん店から離れて、コンビニに売っている西洋鎧を買うことに。
「いらっしゃいませ。鎧一式買う人、はじめて見ましたよ」
「どうしても食べたいものがあるんでね」
「……鎧で?」
「鎧じゃないとたどり着けないんだよ」
コンビニで買った鎧を店の外ですぐに装着。
顔もしっかり兜で覆うと、ふたたびレストランへと立ち向かう。
『何名でご来店ですか?』
「1名!」
『1名様ぶんの食事が用意されました』
テーブルにはできたての食事が用意される。
問題はAIに認識されずにテーブルに到達すること。
その対策がこの重装備だった。
「ふふふ。いかに優れたAIだろうと
これだけ顔やシルエットが隠れた状態なら
人間だと認識なんてできっこないだろう」
バカ重い鎧をガッチャンガッチャンと音立てながら、
あえてロボットっぽいカチコチの動きでテーブルへと向かう。
これならさすがにーー。
『ビー!ビー! 人間として判定されました! 食事を片付けます!』
「またかよぉぉ! なんで認識できちゃうんだよーー!」
ハイスペックAIには多少着込んだところで無駄なあがきだった。
あっという間にヒトバレしてしまい、1人分の食事はテーブルへと吸い込まれた。
これが自分の反骨精神に火をつけた。
「このやろう……ぜったいにひと泡吹かせてやるからな……!!」
これでもコンピュータエンジニアのはしくれ。
人間判定AIなどというロボットに負けるなんて屈辱の極み。
必ずや人間判定を突破して食事にありついてみせる!!
それから数年の月日が流れた。
「か、完成した……ついに完成したぞ! 認識阻害迷彩だ!!」
ポンチョ型の新作ガジェットが完成した。
これを着込むだけでAIが人間だと判定できなくなるもの。
完成にこぎつけるまでは試行錯誤と努力の日々だった。
やっと人間判定AIに勝てる日が来たのだ。
さっそくポンチョを持って、あのレストランの前に立つ。
もちろん証人として友達も呼びつけた。
「なんだよ。見せたいものがあるって……」
「ふふふ。実はとんでもないものを作ってしまったのだよ」
「……トンデモナイもの?」
「これを使えば、この人間出禁のレストランで飯を食えちゃうんだよ!」
「……ふーーん」
「……あ、あれ? なんか薄い反応」
自分のシミュレーションではおおげさに驚いてくれるはずだった。
友達だって人間なのだから、レストランの食事は食られないはず。
「この店、オレもう何回も食べてるし」
「はあ!? うそつくな! お前だって人間だろ!?」
「そうだね」
「なら人間だとバレて追い出されるだろうが!」
「嘘じゃないって。見てろよ」
友達は手ぶらで店に入っていく。
あんな丸腰じゃすぐに人間だとバレるに決まっている。
友達はひとりで店に入るとタッチパネルに触れた。
『何名でご来店ですか?』
「2名です」
『2名様ぶんの食事が用意されました』
友達は気にせず店内へと突き進む。
人感カメラの前に堂々と体をさらした。
『ビー!ビー! 人間として判定されました! 食事を片付けます!』
案の定、すぐに人間だとバレる。
1人分の食事がテーブルへと吸いこまれた。
友達はそのままテーブルにつくと、
残ったままのもう1人分の食事をゆうゆうと食べて戻ってきた。
「美味しかったぁ。それで、お前は何を見せたいんだったっけ?」
僕は悔しさでポンチョを噛みちぎった。
涙の味がした。
超高性能人感AIのレストラン ちびまるフォイ @firestorage
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