最終話 アルナ
「わぁっ。やっぱりここはキレイですね!」
めまいも落ち着いた頃、僕達はこの前の公園にやってきた。
嬉しそうに反応するアルナを見て、僕も嬉しくなる。
”最後の夜”をちゃんと覚えていてくれた事に。
「うん。ようやくここに来れて良かったよ」
「ようやく、ですか? 前に来たのはこの前じゃないですか」
「そうだね。でも、ようやくなんだ」
不思議そうな顔を見せつつも、僕の表情を見て思う事があったのだろう。
何も言わず同じ街並みを見下ろす。
僕はこれから、アルナと新しい一歩を歩んでいく事を決めた。
おそらく少なくとも6年は一緒になる事になるだろう。その6年の間に何があるかわからないし、前のブックマークもあえて外してはいない。
さらに言えば、前のアルナに未練が無いとは言わないし、言う事は出来ない。
それでも、僕は今回の行動に後悔はしていない。
これからもずっと一緒にいる為には、必要なステップだったからだ。
僕はアルナの横顔を見つめながら独り言を呟く。
「これで良かったんだよな? アルナ」
「はい?」
「いや、何でもない」
「……やっぱり今日の聡一郎さん変です」
アルナは少し拗ねる顔を見せる。
「ははは。ごめんごめん」
「でも、良かったです」
「ん?」
「この公園に来て、私のマスターがようやく帰ってきた気がします」
「アルナ……」
「よくわからないけど、そんな気がするんです」
「……」
アルナは真剣な表情で僕を見つめる。
「聡一郎さん、私はずっとそばにいます。ですから、聡一郎さんもずっと私のそばにいてください」
「……!?」
これはあの夜に言ったアルナの言葉。
しかし、これは過去に言った、セリフの繰り返しじゃない。
”前の”アルナじゃない、”今の”アルナが言っている言葉なんだと感じた。
このアンドロイドとは思えないような言葉は、彼女の奥底にある”心”なのかもしれない。
非科学的だけど、そう感じさせる何かがあった。
「アルナ、君は……」
しかし、すぐに笑顔になり僕の袖を引っ張る。
「そんな事より、そろそろ向こうにも行きません?」
そう言うと、遠くで存在感を見せている、大きな観覧車を指さす。
「観覧車……」
「私はまだ疲れてませんし全然動けます。ですから今日こそリベンジです!」
あの時と同じ満面の笑顔が僕を癒す。
そう。今のアルナは前のアルナとは違うからこそ、その先へと進めるんだ。
「そうだな、リベンジしてこようか!」
「はい!」
そう元気よく返事すると、我慢出来ないのか、アルナは車に向かって早足で歩いてゆく。
僕はとても楽しそうなアルナの後ろ姿に向かって声をかける。
「いつもありがとう。これからもよろしくな!」
「はい! こちらこそよろしくお願いしますねっ!」
こうして僕達は、見た事の無い明日に向かって歩いてゆく。
――どうか、この気持ちがずっと続きますように
1.5人目のアルナ TEKKON @TEKKON
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