第4話 融合した人格
あの衝撃の日から丸一日が経過したが、アルナはずっと上機嫌だった。
「この身体凄いです。前とは全然違うんです」
「うん。その身体はAIAL-36Sの最終型だし、スペックも少し上がってるからね」
あと、耐久年数ギリギリの身体から、稼働時間が短い中古に変えたのも大きいだろう。
「ありがとうございます! この身体なら聡一郎さんをもっとサポート出来ます」
「それは頼もしいね。ありがとう」
「いえ。これは私達サポートアンドロイドの義務ですから」
そう言いながら、アルナは洗濯機から取り出した大量の衣服をカゴに入れて、軽々とベランダまで運んでいく。
その光景を見て僕は思わず呟いた。
「……なるほど。前とは違うんだな」
そう。前とは違っていた。
それは見た目がほぼ同じだからこそ感じる違和感。
圧縮、そして一部消去された各種オプションデータ、そして前マスターの影響が僅かに残った性格因子がそれらを引き出している。
大きく変わった訳ではない。しかし前と同じ訳でも無い。
料理の味付けや、一緒に歩く時の立ち位置、 会話のリズム、笑いのツボも少し変わっている。
ふとした時に見せる前の仕草、そして時折見せる知らない挙動。
圧縮されたデータは記憶の継ぎはぎとなり、中古モデル特有の前のマスターの影も見え隠れしている。
きっと前のマスターは上品なメイド的なモノを彼女に求めていたのだろう。
普通の人なら性能が向上した分、前より今の方が良いと思うだろうし、自分も頭で考えたら同じ答えにたどり着く。
しかし、僕が望んだのは完全な移行。今のままのアルナが若返って戻ってくれる事であり、その為に予算オーバーしてでも大金を払った。
だからこそ、今の状況が受け入れられない。
もしかしたら、全く違うメーカーの違うモデルの方がかえってスッキリしたかもしれない。
頭の中でグルグルと考え事が堂々巡りして止まらない。
そして考えたらいけない事まで考えてしまいそうになる。
――コピー失敗したコピーロボットにどんな意味があるのだろうか、と。
…
……
………
その夜、ネットで同じ経験をした人の体験談や、技術的な事について調べていく内に、気になる業者サイトにたどり着いた。
目の前のモニターに 『アンドロイド生体CPU改造パーツ一覧』 という文字が映し出されている。
「こんなものが……」
内容を見ると、脳に直接、電気的な刺激を与えて、奥底に眠る無意識や性格を表出させるアイテムがTOPページで紹介されている。
更に中に進んでいくと、圧縮されたデータを伸張、展開させる専用アイテム等も紹介されており、予想以上に色々出来る事がわかった。
当然、スズリィ等の正規メーカー物ではない非公式な改造メーカーによるものだが、幸いにもアルナ用のパーツも各種取り揃っていた。
「……」
色々見ていく内に、そのまま作業予約ページまでたどり着く。当然安くはない。しかし買えない値段でもない。
しかし、社外パーツを取り付ける事はメーカーサポートが受けられなくなる可能性もあり、そもそも効果が保証されている訳でも無い。
「…………」
悩んだ末、僕はそのページをブックマークに入れた。
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