海がくれたゲホホホホ


 海砂糖という飴を舐めながら告白すると、恋が叶うんだって。

 コンビニで30円で売ってる飴ちゃんに、なんでそんな能力があるかなんて知らない。


 でも信じる。


 先輩はこの扉の向こうにいるはず。

 とりあえず、呼吸を整えよう。


 淡いブルーの包み紙の両端を引っ張る。

 飴を紙に乗せたまま唇に当てて、飴玉だけを口に押し込む。


 舌の上の海砂糖は名前の通り、甘じょっぱい。

 まさに、恋の味そのものだ。


 ん、恋の味は、甘酸っぱい、だった気もする。

 んー、まぁ、いい。


 御利益があると信じよう。


 引き戸に指をかける。

 扉の向こうにいる、あの先輩のステキな笑顔が頭をよぎる。


 なんてキレイなんだろー✨


 想像するだけで、心臓が、バクバクする。

 そのバクバクが顔まで上がってきて、頭の先から心臓が飛び出しそう。

 え、心臓が頭の上から飛び出すって、えっ、えっ、どういうこと。


 ヤバっ、と思って、引き戸にかけた指を外し、胸に手をあてる。

 落ち着け、落ち着け、わたし、心臓、とりあえず、落ち着け。


 海砂糖を、ほっぺの後ろに移動して、大きく息を吐く。


 よし、大丈夫。


 いざ、引き戸に指をかける。


 心臓は、ドキドキしてる。


 でも、まぁ、そんなものだよ、こんな状況だもの。

 なんて、諭したところでドキドキは止まらない。


 ドキドキドキ…………


 よし、もう、いいや。

 今日は、諦めよう。

 引き戸から指を外す。


 と、その時、扉が勢いよく開いた。


 えっ、


 あ、


 佐藤先輩?


「おっ、みゆう、どうした? あー、あいつなら、もう帰ったぞ」


「あ、そ、そ、そうですかー、あ、どうも~」


 と、一礼して、そそくさと退散!

 佐藤先輩から見えないところへ一目散。


 あぶなかった、佐藤先輩に告白するところだった。

 よかった、よかった、ほんとーに、よかった。


 廊下の角を曲がって、階段の近くの壁に寄りかかって、大きな安堵の息を吐く。


「ハァーーーーーーーーーーぁ」


「あれ、みゆう?」


「ハァ、?」


 えっ! その声は先輩!


「なにやってんだ、こんなところで」


 先輩お疲れ様ですお帰りじゃなかったのですかというか先輩今日もお顔が整ってますキラキラです天然の高級ファンデーションですか!


 ”ゴクン”


 あ、興奮しすぎて、海砂糖、飲み込んじゃった。


「ゲホゲホゲホ」


「おい、大丈夫か?」


 という優しい先輩のイケボイス。


「だ、だい、じょうぶ、です、おかまえなく、ゲホゲホ」


「保健室にいくぞ、一緒についていってやる」


 って、先輩、わたしの肩を、その気高い両手で優しく包み込み、エスコートしてくれるの!


 なにこれ? 


 なに、なに、なによ、この状況?


 もう、あたしゃ、飴ちゃんのようにとろけそうで、力が抜けて、いい具合いに足取りもおぼつかず、ゆらついて、こりゃ、見るからに重症じゃないの。


「ゲホゲホゲホ」


 もう、海砂糖は喉を通って胃に落ちて苦しくないけど、わたしはしばらく苦しそうなふりをしてみることにした。


 わたしの肩を、両手で優しく包み込んでくれる先輩。


「ゲホホホホホホ」


 心の中では、笑いが止まらないよー。


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恋は猫で幸せになったよ にっこりみかん @nikkolymikan

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