第2話 PMSでち!

鈴木ルカよ、ハムスターに転生してお前のハムスターとして生きる覚悟をしたが、覚悟の前に死にそうだ。


いくら3月といえど、ハムスターにとって寒くて仕方ない時期にいつも通りに仕事は出来ても性格が雑なあいつは暖房をつけずに出社。



おかげで、俺は出来るだけの床材をくわえて、部屋に入れるために何度もケージの中を往復したおかげで、ただですら短いハムスターの命を寒さで震えて短命になりそうだ。



しかし、眠い。冬眠なのか仮死なのか人間だった頃にクソほど動物に興味のなかった俺はハムスターが昼間に眠る夜行性くらいしか知らない。


右側のほおぶくろに沢山のエサをつめ、否、食事をつめ(人間時代の尊厳が捨てきれない俺)部屋の出入り口も床材でつめて、いつの間にか、ウトウトと眠っていた。


バタン!と荒々しいいつものドアを閉める音がする。やっと帰宅したか。


何とかモゾモゾ部屋から出ると、鈴木は俺のケージの前にスーツのまま、ドカリと座り両手を顔にあてて泣き出した。


仕事でミスしても挽回する仕事が出来る後輩だ。何があった。俺は自分の寒さも忘れ、両足で立ち、小さな両手をケージにつく。


真っ赤に目を腫らした鈴木が声をあげて泣き出す。


「サムちゃ~ん!生理前で貧血で倒れるかと思ったけれど、仕事がんばだよおおおっ、何だあのクソ課長わああ」

ああ、なる程。よく聞くPMSか。こんなにひどいのか?会社ではいつもすました顔で仕事をしていたが......。


クソ課長って、俺が死んだ代わりに昇進して鈴木が遊ばれたあの男か。


とりあえず、話がめちゃくちゃだな...。俺もハムスターだから話せないが。


てちてち鈴木の前を右往左往して歩いていたら、鈴木が突然顔をあげて、ケージから俺を両手ですくい、抱きしめた。


やたら体温が高い。高温期というやつか。


「サムちゃん、私、今日がんばったよねええ?あのクソ上司!」

猫なで声と罵詈雑言がひどいぞ、鈴木。


仕方なく、俺は鈴木の手に小さな手をそえた。鈴木はまたボロボロ泣き出した。


鈴木の涙は、まるで台風の時の土砂降りのように降ってきて俺は生ぬるい涙で体が温まる。


「サムちゃんは、優しいねええっ、なんか体が冷たいけどおお、えぐっえぐっ」

おえつしながら泣く鈴木を見上げながら、鈴木が暖房をつけないからだと思いながらも俺は鈴木が泣き止むまで、じっとしていた。


鈴木の温かい手と俺の冷たい体が、バランスよく温度を保ち始める。


「鈴木、お疲れ様。お前は頑張っているよ」

言葉にならず、キュッキュッと俺は鳴いた。鈴木も泣いた。


何だか、お互いに長い1日だったらしい。



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