第5話:C級レース5000メートルに向けて

『じゃあレイナ、2000メートルの手前で指示を出して』




『うん、わかった……』




超能力者なら誰もが使える精神通話テレパシーで伝える




一週間後に出るC級、つまり特別レースの中で一番グレードが低いレースだが距離が長く、スタミナがものを言う




最近は中距離のレースに出る事が多かったので、まずはゆっくり目に、徐々にスピードを上げ、この空をレース場に見立てて何周か回って調子を掴む




時速30キロと原付と同じスピードで自分で描いたコースとレイナの指示で数週し、その後は50キロ、60キロとスピードを上げる




時速50キロぐらいから軽い眩暈がし、描いたコースをはみ出しそうになる




これが本番であったら壁との接触で湖に落下、もしくは他選手への接触で大きく弾かれる




結局時速60キロを2周した所で限界を感じ、また展望台へと倒れ込むように着陸した




「……ゲハッ!ガァッ!ゴホッ!ゲホッ!」




「ホープ!これ吸って!」




レイナに渡された酸素缶を受け取り、中に満たされた酸素を存分に吸う




「あ、ありがと……」




「あとエナジージェルも」




少し苦手な補給食を渡され、無理やり飲み込む


口の中にいやほど広がる甘みと共に、疲労が薄れる




「もう!飛ばし過ぎだよ!軽めにって言ってたのに……」




少し怒った顔でレイナが近寄りタオルで汗を拭きとってくれる




うん、怒った顔も可愛い




「いやー少し心の中で焦りが見えたかな……ごめんごめん」




「時速60キロの手前でスタミナが切れかかっていたでしょう?いつものレースで見たキレがなかったわ」




「こりゃあ、C級ですら好成績を出すのきついかなっと!」




そう言って立ち上がる




「ねえレイナ、タウリン10本じゃあ足りないと思うのよ。20本に追加するわ」




「20本って、ホープ。普通の飛行少女は平均8本なのよ?飲み過ぎは身体に負担を掛けるわ」




レイナの言う通り栄養素の過剰摂取は身体への負担となる




だが、逆に考えれば栄養素の過剰摂取に耐えられる身体を作ればいいだけの話だ




かの有名な賞金王の飛行少女ホワイトブレスも、何十種類もの栄養素を飲みまくり勝ち星を上げていた




「これから1週間で完璧な身体にするにはこれしかないわ。それに、頭のいいレイナなら理解してくれてるでしょ?」




そう言って、私はレイナの持ってきた大きめのリュックを開ける。中には通常のトレーニングでは考えられない量のタウリン入りの瓶が入っていた




無造作に20本を抜き取り、飲み干していく




「うーん、頭では理解してるのよ。でも、リスクも考えると……」




「リスクなんて百も承知よ。それに、今回は100%の力では勝てない。150%の実力を出して初めてラインに立てるのよ。だからレイナ、私の無茶な要求に付き合ってくれる?そして全てが終わった時には……家族になりましょう」




その言葉にレイナは顔を赤らめて頷いた


うん、可愛い!




「じゃあウォーミングアップはここまで!今からが本番」




そして私は再び展望台の柵に向かって走り出し勢いよく空に舞ったのであった




今度は初めから時速60キロで飛行する




そして描いたコースの第2、第3コースの速度を時速60から65を保ちながら飛行を続け、最後の直線で時速75キロとスピードアップ。


景色が一気に変わり、音も鋭くなる




『タイム良好!』




ゴール位置を過ぎた後レイナの言葉を聞き、再び時速60キロに戻し、描いたコースを飛行する




それを何周か繰り返すうちに、いつも出てくる疲労感がほぼ消えている事に気付く




やはり、先ほど過剰に飲んだタウリンのおかげだ




しかし、過剰に飲んだ代償は嘔吐感と化して現れる




気持ち悪さを必死にこらえ、周回を続ける




耐えろ!吐くな!吐いたらガチで死ぬぞ私!




『ホープ!フォームが崩れてる!大丈夫!?』




やはりか……。トレーニングに集中しないと……




(やっぱ無理だ!)




私は周回を止め、急いで展望台ではなく、その奥にある女子トイレ前に離陸する




「ホープ?」




そして私は、慌ててトイレに入り……激しく嘔吐したのであった




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