第19片

 デイドリームと夢香が不思議な家に入ると、髑髏ドクロの置物が置かれていたり、ドロドロした緑色のスライムが壁中に塗られていた。


 「気持ち悪っ。ねぇ、帰ろう」


 夢香がデイドリームの裾を掴んでそう呟いた。夢香の好奇心が気持ち悪さに負けてしまったらしい。


 裾を掴まれていることに、いまさら羞恥心しゅうちしんを感じた。夢香の顔がすごく近い。胸も当たって……(いや、だめだ)デイドリームは首を振って、そんな考えを振り払った。

 

 デイドリームの好奇心はまだ負けてないようだ。デイドリームは背中を見て着いてこいと言わんばかりに歩き出した。


 デイドリームが見えなくなった辺りで夢香は「ねぇ、ちょっと待ってよ」と言いながらデイドリームを追いかけて行く。家の玄関に薄暗闇だけが残る。空から雨が降って来る。もう僕らを照らすものは何もない————



 2人は扉の前で立ち止まっていた。この先で何かが聞こえる。


 「ケエレ、ケエレ、」


 何やら女性の声がする。かろうじて「けえれ」と言っているように聞こえる。どういう意味だろうか。少なくとも、今の僕らは使う事のない表現だ。


「これ、って言ってるよ」


 夢香がデイドリームに耳打ちをした。夢香は古い『日本』という国の言葉に詳しい。今のドーナッツ島に住んでいる人の多くはアメリカ人で、夢香の持つ『古雲』というファーストネームは世界に1つしかない日本の苗字らしい。


 「ねえ、帰ろうよ」

夢香がデイドリームの手を掴もうとした瞬間、躊躇ちゅうちょせずデイドリームは扉を開けた。


 重い扉が開き、ダンと壁に当たる。

「「え?」」

 そこにいたのはデイドリームの父、ブラウンだった。

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