第14片

 デイドリームが走り去った後、試合を待っていた受験生達は腰を抜かした。追いかけようとした者もいたが、さすがにフィールド内に入って追いかける勇気はなかったらしく追いかけた者はいなかった。

「おーい!戻って来ーい!」


 必死に呼び止めた者もいたが、デイドリームは好奇心に身を任せ、無我夢中で走り続ける。



 デイドリームは逃げる人を必死に追いかけた。全速力で追いかけた。ビルの間の狭い道を縫うように走る。なぜか雪が降っている。雪を見た瞬間、サイレントタウンに住んでいた頃のことを思い出した。



 小さい頃からよく学校の運動場や田んぼの周りを白い息を切らしながら走っていた。雨の日も、風の日も、雪の日も。やることが他になかったからかもしれないが、走っている時間がすごく好きだった。いつも、デイドリームが走っていると町の小さなスーパーのおじいさんがビンのジュースをくれた。それがモチベーションにつながって、どこへだって走っていける気分になる。暇な時は走っていた。だから、デイドリームは走るのが得意だ。



 そんなことを思い返していたので、デイドリームは人影を見失った。周り見まわしながら走る。デイドリームが青いビルを通り過ぎようとした時、青いビルの中に人影が見えた。逃げずに止まって下を向いている。どうやら相手は白旗を振ったらしい。


 デイドリームは「おとなしく出てこい!」と叫びながら人影に近づいた。そこにいたのはウサギの耳が生えた女性だった。ウサギのコスプレをしているのだろうか。何か隠しているような顔をしている。


 「受験生じゃないですよね!?」

デイドリームが聞くと、女性は俯いた。そのまま沈黙が流れる。女性は気まずいような顔をする。


 その沈黙を切り裂くように、レオの声が聞こえてきた。

「おーい!デイの出番だぞ!」


 レオが走りながらこちらに向かってくる。どうやら試合が終わったらしい。


 女性は、こちらに向かってくるレオを見て、焦ったような顔をして小さなウサギの姿に変わった————

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