第17話 まだ終わってない

 フェリシアを目の前にした手下たちが色めき立つ。

 

「いい女ですよ、姉御ぉ!」

「透き通るような肌だぁ! 舐め回してぇーー!!」

「こういう女を壊れるぐらいまで、犯しまくるのがいいんだよなあ!!」

「お前たちこいつは私の獲物だよぉ! ちょっとアレを持ってきなぁー!」


 マデリーナは一人の男が持ってきたものを腰に装着する。

 そそり立った禍々しいものを目にしてフェリシアの嫌悪感が最高潮に達する。


「これで思う存分可愛がってやるからね。人生観変えて、私無しじゃいられないようにしてから売っぱらってあげるよぉ」

「あんたも姉様の良さ存分に味わってごらんなさぁい!」

「もう頭が快感でぶっ飛んじゃうんだからぁ!」


 髭面に化粧をした男たちがいう。

 ちらほらと変な人間がいるとは気づいてはいたが、そういうことなのか?


「あんたも男だったら前も後ろも攻め上げて上げるんだけどねぇ」

「黙れ!」

「あれ、もしかして生娘とか?」

「黙れぇ!!」


 斬りかかろうとしたフェリシアをまるで木の葉でも払うように、マデリーナは大斧で払う。

 

「がっは!」


 フェリシアは家屋の壁を突き破る。瓦礫を払い除けていると、間髪入れずにマデリーナの追撃をくらう。

 マデリーナにまた大斧で払われ、家屋の壁を突き破り、また違う家屋の壁に叩きつけられる。


「あーはっはっはっ! いいわぁ、いいわよぉ!! やっぱりこうじゃなくちゃね。おもちゃは壊れにくくないとぉ!」

「姉御ぉ、あんま傷物には……」

「分かってるわよ。私だってこの後、一晩中楽しむんだから。まあでも壊れた人形も愛おしいのよねぇ」

「黙れ、この変態ババア! 不特定多数を相手にこんな歪んだ喜びに浸るなんて、お前は人間の皮をかぶった獣だ!!」

「なぁに言っちゃってくれてんのぉ、この小娘ぇ!!」


 激昂したマデリーナが薙ぎ払いを放つ。

 今度の攻撃は躱したが、その一撃は一瞬で家屋を瓦礫の山に変えた。


「姉御、あんまりムキに……痛ててて」

「うるさいんだよぉ!!!!」


 マデリーナは手下の頭を掴む。

 

「うぎゃぁあああああああ!!」


 男の頭がトマトのようにひちゃげて血が周囲に飛び散る。


「ちっ、意見なんかするから殺っちまったじゃない。んで、なんだってこのア……」


 ぼとっと大斧が地面に落ちる。

 周囲の時間が止まったように無音になる。


 

 

 マデリーナはゆっくりと自分の右手に視線を向ける。

 右手は手首から先が綺麗に斬り落とされて、大斧と一緒に地面に転がっていた。

 手首からは鮮血がほとばしっている。


「いやぁああああああああああ!! 私のぉ、私の右手がぁああああああああああ!!!!」

「おい見ろよ! あの女の鎧の紋章を!」


 マデリーナの攻撃によってフェリシアの鎧に刻まれた、天穹騎士団の紋章が顕にされていた。


「なんで天穹騎士団がこんなところに」

「勝てるわけねえ!」


 盗賊たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 村の中心にはぽつんとフェリシアとマデリーナだけが取り残された。


「見で攻撃を受けていただけなのに、調子に乗って油断しすぎよ」

「ねぇ、あんた頼むよ。治癒魔法使えるんだろ? 魔法かけて血を止めておくれよぉ」

「……あなたのマンハント依頼書を読んだことがあります」


 フェリシアはまだ剣を鞘に納めていない。


「それがどうしたんだよぉ」

「手配書には少なくとも、30人以上の罪なき人々を殺しているとありましたよ」

「そりゃ、こんな稼業をしてればそうなるさ。ちっ、泣き落としは無理かい」

「どうですか、小娘にやられる気分は?」

「最悪に決まってんだろ、さっさとやりなこのアマぁ!!」


 フェリシアは剣を掲げ瞑目し、祈りを捧げる。


「罪なき人々の魂よ。これにて安息を得られることを願います」


 横払いの一閃――


 ぼとりとマデリーナの首が地面に転がった。

 


 


<ユウ視点>


 どうなることかとしばらくフェリシアと盗賊たちとの戦いを見守っていたが、フェリシアはやはり強い。

 天穹騎士団てんきゅうきしだんがどれほどのものかは分からないけど、きっと相当な実力者が集まっているのだろう。

 隠れる必要もなくなったので、俺は村の中へと入っていく。


「何よ」


 俺を見かけるなり、フェリシアがかけてきた言葉がそれだった。

 

「何よって何だよ」と売り言葉に買い言葉をはきそうになったがぐっと堪える。


「一応、様子を見に来たんだよ。それにさっきの借りを返さないといけないからな」

「何よ借りって? 借りなんて作った覚えなんてないんだけど」

「俺の獲物を横取りしただろ?」

「はあ!? まだ言ってるの?」

「そうやって、やった方はすぐ忘れるけど、やられた方は覚えてんだよ!」

「ふん、じゃあ残念だったわね。借りを返せなくて!」

「いや、まだ返せるぞ」

「はあ!? 一体、何の負け惜しみ? ちょっと私、忙しいから負け犬の遠吠えにかまってる暇はないの」


 フェリシアは俺にそう吐き捨てると、縛られた村民たちを解放していく。

 くそっ、負け犬の遠吠えだと?

 言うことに欠いてこの女は……。


「なんじゃもう終わってしまっとるのう」

「見せ場はもう終わったみたいっすね」

「お前がタラタラと立ちションなんかするからじゃぞ」

「方向間違えたのは師匠じゃないっすか」


 そこにエドワードとロイも到着した。

 二人には相変わらず緊張感の欠片もない。


「あなた方も来てくれたんですか? 別に助太刀は必要なかったんですが……」

「かぁー、可愛げないのう。ロイ、お前くらい可愛げがないわい」

「それは随分と可愛げないっすね」


 フェリシアはその抗議に唇を尖らせる。

 そこで俺は更に声をかける。


「まだ終わってないぞ」


 俺のその一言で、場とフェリシアの村民を縛ったロープを解く手が止まる。


「何言ってのあんたさっきから? 負け惜しみもほどほどに――」

「負け惜しみなんかじゃない」

「はいはい、分かりました分かりました。ちょっと村人を全員解放するまでまってくれる?」


 なんだよ、その子供を諭すような口調は。

 ぐぬぬぬぬ。もう彼女に対して進言するのは諦める。

 

「おい、お前、盗賊たちのボスだろ?」


 俺は村民の一人を指差す。

 それはぼろ衣をきた細身の男だった。

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