第16話 両刀使い

<フェリシア視点>


「あそこだよ」

「ありがとう、じゃあ僕、ちょっと離れててくれる? できれば見えなくなるくらいまで」


 少年は頷くとその場を後にする。


 盗賊たちは村の中央で酒盛りをしている。

 その少し離れた所に村人たちは縛られていた。

 見張りは特に配置されていないようだ。


 フェリシアは物陰に隠れながらこっそり盗賊たちに近づく。

 盗賊たちは若い女を中心に酒盛りがされているようだ。

 女は細身の体に豊満な胸を備え、長髪を後ろに束ねている。

 綺麗な顔立ちをしており、周りの粗暴そうな盗賊たちと一緒にそこにいることが場違いに思えた。


「若い男がほとんどいねえから、簡単でしたねえこの村ぁ」

「金にはなるけどつまんないねぇ。私は殺しがしたくてこの稼業やってんだからさあ」

「ガキはいるみたいだから遊びますか、姉御? 狩りでもして」

「ガキは精神こころも体もすぐに壊れちゃうから、つまらないんだよねぇ」


 姉御と呼ばれた女が子どもたちに視線を向けると、子供たちの何人かは泣きそうになる。

 それを母親が後ろから泣き声を出さないよう必死に抑えつけていた。


 会話を聞く限り非力そうな女に盗賊たちは従っているように見える。

 人のことは言えないのだが、フェリシアはそれを単純に不思議に思った。


 彼らの近くには一体誰が扱うのかと驚くほどの大斧があった。

 そうは見えないがあの斧を扱える猛者が奴らの中にいるのだろう。

 フェリシアは警戒を強める。


「あー、暑いねぇ今日は」


 女は無防備に胸元をはだけさせる。

 白く美しい双丘の谷間に男たちの目は釘付けになる。

 ある一人の男が「ごくり」と生唾を飲み込んだ後、欲望を隠さず問いかける。

 

「あ、姉御、それで今回もご褒美もらえますか?」


 女はそれに対して舌なめずりしながら妖艶に微笑む。

 

「もちろんだよ。一晩中、お前たちの相手してやるさ」

「お、俺もう辛抱ならねぇっす!」


 一人の男が女に飛びかかりそうになる。

 

「ちょっと待ちなぁ!」


 女は一喝する。すると男はシュンと借りてきた猫のように大人しくなる。

 

「まだ酒飲んでんだよ。後でお前たち全員、ミイラになるくらいまで出させてやるからさぁ」


 男たちの抑えきれない欲望の眼差しが女に集中する。


 フェリシアの顔が嫌悪感で歪む。

 なんで男たちがあんな女性に従っているのかと、不思議に思ったらそういうことか。

 自らの体を武器にしているとも言えるかもしれないが、フェリシアはその手の行為で男の心を掴むことを心底軽蔑していた。


 ぱっと見で腕のたちそうな者はいない。

 ここから飛び込めば、住民たちと盗賊の間に立ちはだかる形で飛び込める。

 

 フェリシアは腰の剣を抜くと、不意打ちで死角の盗賊を何人か葬るつもりで飛び出す。

 至近まで近づいても誰もこちらを振り向かない。


 殺った――――


 そう心の中で思った時だった。


 女は突然大斧をその手に持つと、死角のこちらに向かってそれを振り抜いた。

 細身の腕と非力そうな体で信じられないようなパワーだ!

 フェリシアはふっ飛ばされ、家屋の壁に衝突して破壊する。

 

「大したことない奴らだ。隙だらけだし正面突破でやってやろう。こうあんた思っただろう? 甘いんだよ! ガキの泣き言聞いてノコノコおびき寄せられる所とかさあ!」

「思い出したわ。あなた鉄腕のマデリーナね」

「あら、よく知ってるじゃない」


 マデリーナは片手で軽々と大斧を担いでいた。

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