第3話 スキルは無能
「なあ、セリーナさんよ。俺のスキルとステータスってどうなんだ?」
先ほどまで不機嫌そうに不貞腐れていた、黒崎が声を弾ませて問いかける。
セリーナは黒崎のステータスを覗き込み、目を見開く。
================
《名前》
《レベル》 1
《種族》 人間
《生命力》 90
《魔力》 50
《攻撃力》 45
《防御力》 40
《魔法攻撃力》 20
《魔法防御力》 20
《俊敏》 40
《知力》 25
《スキル》 剣聖
《魔術》 なし
================
「まあ、剣聖ですね! 数万人に一人という大変レアなスキルになります。ステータスは……どれも初期ステータスとしては標準より大変高くなっております!」
「そうか、じゃあ剣士の最上位ってわけだな。まあ悪くねえか」
そこで風間の周りの女子から嬌声が響く。
「きゃー、勇者よ!」
「きゃー凄い!」
瞬時に嫌そうに顔しかめた黒崎を置いて、セリーナが風間の元へと向かう。
================
《名前》
《レベル》 1
《種族》 人間
《生命力》 95
《魔力》 80
《攻撃力》 40
《防御力》 35
《魔法攻撃力》 45
《魔法防御力》 40
《俊敏》 50
《知力》 45
《スキル》 勇者
《魔術》 光の剣、治癒の光
================
「まあ、勇者。陛下、勇者が出ました! ステータスも大変素晴らしいです!」
部屋がどよめく。
風間のとりまきたちの嬌声がうるさい。
だが本人は至って冷静で、当然のことのように受け止めているようにも見える。
風間にとって人より抜きん出て優秀であることは、最早既定路線で驚くべきことでもないのだろうか?
そこに横槍を入れるように一人の女生徒が質問を投げかける。
「ちょっとすみません。私のステータスも見ていただいてもよろしいですか?」
セリーナに声をかけたのは、美月 紫苑だった。
俺が密かに女帝と心の中で呼んでいる女生徒だ。
美月はそのきつい性格と計算高い行動でクラスのヒエラルキーを巧みに操り、女子生徒たちを支配下に置いていた。
================
《名前》
《レベル》 1
《種族》 人間
《生命力》 85
《魔力》 90
《攻撃力》 30
《防御力》 30
《魔法攻撃力》 50
《魔法防御力》 45
《俊敏》 40
《知力》 50
《スキル》 賢者
《魔術》 治癒魔法、防御魔法、知識の光
================
「まあ大変素晴らしい、賢者ですね。こちらも大変レアなスキルになっております。流石は賢者、初期ステータスも素晴らしいですね!」
「あら、そうですの。まあ、体を動かすのはさほど得意ではないので、魔術師でよかったかもしれませんね」
美月は黒髪の長髪をなであげながら応える。
風間に美月、それに黒崎。
クラスのヒエラルキーの上部に属する人間たちが、軒並みレア以上のスキルを獲得している。
異世界に来ても元世界の理不尽な階層構造は変化しないのか?
恵まれた人間、運ゲーの覇者たちは異世界に来ても勝者のままなのか?
まさか現実世界を投影してるんじゃないだろうな。
そんな不吉な考えが脳裏に浮かぶ。それなら俺に未来はない。
「すごいです、美月さん!」
「賢者なんて羨ましいです!」
美月が配下のように従えている女生徒から称賛の声が上がる。
「そんなこと……」
美月が言葉を続けようとしたところ、また別の場所から歓声が上がる。
「きゃー、聖女よ!」
「信じられないわ、
セリーナは今度はそちらに向かう。
================
《名前》
《レベル》 1
《種族》 人間
《生命力》 85
《魔力》 100
《攻撃力》 20
《防御力》 25
《魔法攻撃力》 45
《魔法防御力》 50
《俊敏》 30
《知力》 50
《スキル》 聖女
《魔術》 癒しの光、聖なる結界、浄化の息吹
================
「聖女! さすが、賢者にも負けず劣らずの素晴らしいステータスです!」
「よかったわね、葵!」
「おめでとう、葵!」
彼女の友達が称賛を送っている。そこへ遅れて美月が到着した。
「へぇー、私に負けず劣らずですって。よかったわね、春日部さん」
「え……ええ、ありがとう」
春日部は美月と目を合わそうとはせずに遠慮がちに応える。
彼女とその友達も同様に、先程までの嬉しそうな表情はともに影を潜めていた。
「も、もちろん私の力はクラスのみんなのために使わせてもらいます」
「そう、よろしくお願いしますね。お互いレアスキル同士、頑張りましょう」
「は、はい、わかりました!」
まるで女王が配下に命じる如き言葉に、春日部が従順に応える。
俺は知っている。
春日部は元々クラスの上位ヒエラルキーに属していた。
成績優秀で、何より彼女の控えめな性格と内面から溢れ出る優しさから好感を得て、多くの友人を抱えていたからだ。
しかしそんな彼女は美月の嫉妬を買うことになる。
友達との分断工作をしかけられ、ありもしない噂を流されて、クラスの底流へと追いやられてしまったのだ。
ほとんどの男子はこの事実を知らないと思う。
表面化しないように非常に巧妙に策が巡らされていたからだ。
だが俺はいじめられっ子という立場上、そういった事には敏感で気づくことができた。
春日部は底辺に追いやられた後も執拗に美月からいじめ、嫌がらせを受けて、すっかり美月のことを恐れてしまっている。
だが、これは一筋の光明だった。
現実世界のヒエラルキーがそのままスキルに投影されるわけではなさそうだ。
であれば俺だって凄いレアスキルを得られる可能性だって大いにある。
怖くて言えなかったその言葉をようやく紡ぐ。
「ステータスオープン」
俺は期待を胸に表示された画面を眺める。
「嘘だろ……?」
思わず言葉が漏れる。
モニターに表示された文言が信じられなかった。
こんなことがあるのか?
ショックで呆然とする。
それを目ざとく見つけた黒崎が背後から近づいてきていることに気がつかなった。
「ぎゃはははははは! おい、みんな見ろよ! 小日向のスキル、無能だってよ!!」
================
《名前》
《レベル》 1
《種族》 人間
《生命力》 35
《魔力》 20
《攻撃力》 15
《防御力》 15
《魔法攻撃力》 10
《魔法防御力》 10
《俊敏》 20
《知力》 25
《スキル》 無能
《魔術》 なし
================
スキル欄には『無能』と表示されていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます