戦国時代の魔法使い。異世界から来たけど帰れないので何とか生き抜きます。
魔法使いはとうに超えた人
第1話 出会いは未だならず
さて、困った。年のころなら17,8の娘。やや赤みがかった金髪をポニーテールにした美女と美少女の境にある顔立ちは、難事に対して眉を顰めていた。
「何処だ、ここ・・・ありえない位に魔元素が少ないし薄いし質が酷いって、廃墟星レーウェンより劣悪じゃないか・・・」
娘の故郷ではどんな場所でも今いる所より5桁は位が上の魔元素に満ちているのが現状だった。そう、彼女の言うレーウェンよりも。自分の世界と近隣の星々を踏破した彼女だから断言できる。
というわけで、ここが自分の世界とは別の次元に存在している事は明白だった。
「次元座標を特定して次元門を開くのは・・・不可能かね。座標を調べるくらいはできるだろうけどさ、この魔元素量からして何時特定できるやら・・・」
娘からため息が零れ落ちると同時に近くの茂みが音を発て人が分け出てきた。その数、男4人。皆、粗末な胸と腹を覆う寸胴のような鎧と如何にも安そうな槍を持っている。因みに髪と目は黒かった。
『おい、裸同然の女がいるぜ?』
『髪の色が金色だ。うわさに聞いた南蛮人か?』
『どうする? 南蛮人なんて手を出していいのかよ?』
『ここで楽しむより、攫って売った方がいいか?』
等という会話をしているのだが、肝心の娘の方は首を傾げている。
なお、話にある裸同然とは、現代で言うならば、へそ出しタンクトップにボトムスのショートパンツ。そしてレザーブーツといった姿だ。
ここに来る前は上にジャケットを羽織ってはいたが、それは主人を守る役目を終えて逝ってしまった。
「ふん、世界が違うならアタシが知る言葉等とはまるで違うか。仕方ない、”我に万能の言語を”…使うの何時以来だろうな、これ?」
愚痴の中に一言韻の違う文言が加えられると、娘の耳に男達の会話が聞こえてくる。
「組頭に報告したほうがよくないか?」
「いや、あのがめつい野郎のこった、自分の手柄にするか自分だけで楽しむんじゃないか?」
「ああ…そうだな…じゃあ、やっぱ俺たちだけでどうにかすっか」
どうやら、碌なことにならなさそうな会話だった
だが、まあ、慌てるにはまだ早い。見たところ強さは、さっきまで戦っていた相手と比べてミジンコ以下に弱そうだった。
「さて、話は纏まったか?」
娘からの思いがけない問いかけにぎょっとする男一同。
互いに顔を見合わせて、代表して最初に姿を見せた男が槍を構えながら逆に問う。
「おめえ、俺らの言葉がわかるのか?」
「まあな。とりあえず、アンタらがアタシの体を貪ってどっかに売り払おうって魂胆らしいのは聞き取れたぞ」
一切、表情を動かさずに告げる娘に男の方が一歩引いた。
「そ、それが分かっていて、なんでお前はそんな平然としているんだよ! 言葉は分かっても内容は理解できてないのか!?」
下卑た笑みを浮かべていた男の一人が声を震わせて叫んだ。
「あー、うるさいな。そんな大声出さないでも聞こえてるぞ。まあ、律義に答えてやる必要もないんだが、あえて教えてやるなら怖くもなんともないからだ」
「な、なんだと!!」
頭を掻きながら答えた娘に男達が気色ばむ。彼らは農民ではあるが、有事には兵士として槍や刀を持ち人を殺しまわる兵士となる者達だ。
それも一度や二度ではなく複数にわたって出陣し、それなりに場をこなし、運以外の力で生き抜いてきた矜持もあった。
そんな連中が武器も持たない裸の女に馬鹿にされて激高しないはずがなかった。
「おい、多少傷ついても構わねえ、痛い目見せてわからせてやろうぜ!」
一人が気炎を上げると残りの三人も「応」と答えて槍を突き出して襲い掛かった。
そんな様子になっても、娘は「ああ~」としか言わずに、逃げも避けもしない。
そして槍の穂先が娘に触れる直前に槍が爆ぜた。男達と一緒に。
「自動迎撃機構オフにしてなかったな。すまんな」
大地に散乱した元、男達だった肉塊と夥しい血液の染みに舌をペロッと出す娘。
だが、それも一瞬のこと。
直ぐに眉根を寄せると一言。
「うわっ! 燃費悪ぅ!」
自身の中に残ってる魔力残量に苦い笑みを浮かべる。
「敵は外じゃなく内にありってかぁ・・・何とかしないとキサラさん、マジでヤバイかもな」
腕を組み深刻に悩みだした娘だったが、やがて思い出したように顔を上げて独り言ちた。
「あ、ここが何処か聞くの忘れたじゃないか」
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その少年は屋敷の庭先で頭を抱えていた。
ほぼ日課になっている為に、周囲の人間は心配そうにしてはいるものの声を掛けようとはしないでいる。
きっと大事なことを考えてるに違いない(本人にとっては)と。
(ついに数え10歳になってしまったー! 何とかなるだろうと思いながら流されてきたけど、何にもかわってないー!)
この世に生を受けて10年。意識が覚醒してからも10年。
赤子として生まれた時から意識があった異常も今は受け入れている。
少年は転生者だった。
令和の時代を生きていた高校生であったはずである。
それが、今では……
「菊幢丸様、そろそろ学問のお時間です」
「ああ、もうそんな時間か…わかったよ、万吉、すぐに支度をしよう」
少年と同じ年ごろの童子が声をかけると菊幢丸と呼ばれた少年が立ち上がる。
俯いて頭を抱えていては分からなかった顔つきは端正というよりは、幼すぎて可愛らしくあった。
将来は十人中九人はすれ違いざまに振り返るであろう美男子になるだろう。
「しかし、凄いですね。菊幢丸様は、学問は1を聞けば10を知り、武芸に至っては同年代に並ぶものなしですから。近習としては負けていられないのですが、とても叶いそうにありません」
「ああ、まあ、そうかもしれないね……」
万吉の賞賛の声にも菊幢丸の返事は歯切れが悪い。
それは転生者であるし、この身はいずれ剣豪と呼ばれる人物の持ち物であるからで、と申し訳なく思うからである。
ただ、なぁと万吉ら近習衆に気づかれずに吐く溜息は、この命も今のままだとあと20年なんだよな、と気が重くなるものであった。
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