第6話万人なヒロイン

「真似したいのなら、先輩も片っ端から女の子に言って追いかけ回してもいいですよ」


 どうぞ、と言いたげに鼻を鳴らす苺谷。

 現時点で少なくとも俺のヒロインになってすらいない、女の話を要約すると最初に知り合うことを狙っているだけだろう。

 2回目からは話しかけ易くなるだろうし、聞いた感じでは悪い手とも思えない。

 しかし、俺の求める青春ってのは媚びへつらうようなモテ方ではなく。

 もっとこう……なんというか、自然というか、とにかく違う。


「そんで、俺のヒロインはなんで先輩で呼んでくるんですかね?」

「だって高校1年は誰も後輩がいないじゃないですか。そんな中、先輩呼びしてくれる女の子ってレアリティ高くないですか?」


 そうか? と目を細めて苺谷を疑っていると「ね、せぇんぱいっ!」とそばにいた男へ問いかけ、彼はしどろもどろに頷く。

 

 おいおい……話の内容も分からないのに頷いてると、あっさり騙されたって知らないぞ。

 それになんともこの子は恥も何もかもを捨て去ってんな。

 同級生を先輩と呼ぶことに対してプライドとか、ないのだろうか? ないんだろうな。


「そっか……俺はてっきり先輩たちを狙ってたけど、いざ来てみたら誰が年上かよくわからないし、間違えたら可愛げがないし、全員先輩でいいや。そんな意図かと思ってたよ」


 ともかく知れば知るほど、俺の目標と合わないタイプだ。

 倍率上げてモテるとかじゃなくて、もっと純粋に恋愛しようって分かち合える人を見つけなくては。


「あははー、まったく……ソンナワケナイジャナイデスカ」


 あからさまに目を逸らし、カタコトで答えてくる苺谷。

 わざわざ強調して変な喋り方をするあたりも、俺より馬鹿だと油断させるために計算しているんだろう。あざとい奴。


「というか、その理論で行くと俺もお前のヒロインにもなるよな」


 ぱちぱち、とまばたきをし、間を空けて様子をうかがってくる苺谷。

 どう答えたら良いのか、そう判断しているようだ。

 何も不自然ではない、それでもポンポン答えてきた流れでは少し違和感がある。

 そう、ここは時間をかけずに「はいっ」など、と適当に笑って仕舞えばドキっとしてしまう場面なのだから。


「はいっ、まぁ、そうゆうことになりますね! 嬉しいですか?」

 

 訳1秒も間を開けて、可愛いく首を傾げて聞いてくる苺谷を無視して周辺を見る。

 そもそも他にも先輩がたくさんいる中、こいつはやけに俺へだけスキンシップが激しい。

 なんでだ?

 初対面で隠し財産もない、顔も忘れ去られるほど特徴がない、狙われる特別な理由は特にない。


「はぁ……ま、好きにしたら良いさ」


 最初から1人ずつ仲良くするターゲットを選んでいるのか、はたまた何か勘違いしているのか。

 どちらだとしても、俺の青春にはどうでも良い。


「ところで、ヒロインのお前を差し置いて。先輩たちはみんな別の人に夢中みたいだけど良いのか?」

「え?」


 苺谷が一段と腑抜けた声を出した直後「ゔぉぉぉぉぉッ」と地響きが足から伝わり。

 先ほどまで挨拶していた男たちの誰もが、彼女のことを微塵だりとも気にする様子もなく目を輝かせる。

 

「皆さん、おはようございます」


 鈴の音のような透き通っていて、涼しさを感じるような声にスマホを掲げ、生徒たちが見つめる先へ一枚写真を撮る。

 

 2階バルコニーやら階段から飛び降りる勢いな群衆の中、人混みから警備員が守る中を車から降りる一人の女子生徒。

 腰までかかった煌びやかな黒髪には枝毛一つなく、手入れされていて。

 その身体付きは巨乳や貧乳というジャンルに納めるのもおこがましい、バランスの取れた『美』を感じる。


「まさに万人から愛される、清楚なヒロイン様のご登場だな」

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