つくも!
万年一次落ち太郎
第1話ログインボーナス一日目
昔からゲームが好きだった。
勉強そっちのけ。家に帰ればすぐさまゲームの準備をする。
高校を卒業して地元のドラックストアで外回りを任せられたときに少しは生活が変わるかな思った。
だが変わらなかった。いや、もっと酷いことに。
バイトと違い纏まったお金が手に入るようになり今まで手をだせなかったソーシャルゲームの課金に手を出してしまった。
それがいけなかった。高校の頃薬物について学ぶ授業のがあってそのとき薬物依存の悪循環の図をみたがまさか自分がその図に当て嵌まるだなんて思いもしなかった。
一度だけなら、一万だけなら。あー、フェス用の石がなくなったか。
ま、お賽銭だと思えば――そうやってずるずると。
気が付けば今まで買ったソフトの値段を優に超えることに。
まあ、自業自得だしなにより後悔はしてないので気に病むほどではないのだが――。
「サービス終了のお知らせ――」
唐突なお知らせが開催中のイベントの一番上に表示される。
エイプリルフールイベントかな?そうだろう?
だが無情にも「サービス終了のお知らせ」をタップしても表示されるのはいついつまで課金できるとかキャラの交換ができるとかそんな情報ばかり。
「嘘だろ」と自分の体から力が抜けてゆく。
メインストーリーいいところじゃん、とかラフ絵のキャラでてないじゃんとか思ったりもしたが『一種のゲームクリア』そう思うことにした。
というのも決してこれがはじめてではないからである。
もうこれで三作品目だったか。そのたびに悪循環図を繰り返して。
他人からすれば『鶏以下』とか『金の無駄遣い』だと思われるだろう。だけど推しキャラを愛でているとき確かに自分は幸せだった。
そんな幸せを噛みしめるように推しキャラが登場した季節イベントやキャラストーリーをコンビニに止めた車の中で思い返す。
――いや、さすがにこれは。
自分でも女々しいというかかなり痛いヤツだと思い外へ。
夕飯をコンビニ弁当で済ませようと歩き出したときどこからか祭囃子が。
「懐かしいな。おばあちゃんが生きていた頃よく連れて行ってもらったな」
童心に帰りながら屋台が出ているなら焼きそばぐらいあるだろうと祭囃子の聞こえる方へ。
だが音へする方へ音へする方へとあるけど提灯灯りすらみえない。
そもそもこの辺りに祭りができるような公園はないはず。
「――化かされてる?」
小学生の頃のことだ、夏休みになり実家に帰るとおばあちゃんがいろんな話を語ってくれた。
ときに怖くてときに可笑しくて。
「確か――狸囃子だったか」
音はすれどその場所には絶対に行けないという話だ。
別に恐ろしい話じゃないのに思わず身の毛がよだつ。
戻ろう。と足を引いた時なにか、誰かに足がぶつかる。
「すみません」と振り返ると大きな鈴の髪留めが印象的な和服を身に纏った小学生ぐらいの子が立っている。
自分は駆け出した。そのつもりだったがその子に服を掴まれた。
「お兄ちゃん行こう!」
「あ、えっと、人違いだと思うよ」
自分は一人っ子だ。妹なんていやしない、そのはず。
冷汗をかきながら足を動かそうとするが動かない。
「早くいくよ。お祭り終わっちゃう」
子供が手を握って来たかと思えば走り出した。
自分の意思を無視して足が動く。今まで生きてきた中でこんなに早く走ったことがない程の早さで風を切り闇を駆ける。
段々と明るくなってきたかと思えば先ほど聞こえていた祭囃子が大きくなってることに気が付く。
「祭りだ――」
櫓があって屋台があって。まるで昔おばあちゃんと来た祭りのようだ。
「お兄ちゃんどこから行く?」
「待って、本当に人違いだから」
後ずさりしながら言い切る。
「ううん、人違いじゃないよ。それに約束だから」
「約束?」
うん。と子供は笑顔で答える。
記憶を懸命にたどるがこんな子供と約束をした覚えはない。
「君はいったい――」
「お兄ちゃん忘れちゃったの?わたしだよ鈴彦姫。今度はわたしがお兄ちゃんを助ける番、でも今は一緒に遊んで欲しいな」
ぽつりとこぼした言葉へ返してきた名前を聞いて一瞬くらりとした。
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