磁力魔術は引き裂けない〜異世界に飛ばされた俺、魔術学園で最強ライフ〜
乱痴気ベッドマシン
#001 磁石と令嬢①
大きな歓声に包まれながら、俺は会場に立っている。
学校にある、試合用の闘技場みたいなものだ。
なんで闘技場があるのか?
それはここが魔術学園だからだ。
その会場は芝生が敷かれている———つまりはある程度激しいことをすることがわかる。
そう、ここで俺は今から戦うのだ。
客席からは仲間たちが視線を送ってくれている。
鋭い目線の少女。
怯えて震える少女。
なんか上半身裸の男。
「———二度と立ち上がれなくしてやるよ」
そう言うのは目の前の緑の髪の青年である。
髪はオールバック、顔はかなり強面の部類になるだろう。
その表情には本当にそうしかねないほどの殺気がある。
無論俺のせいだ。
「———俺はただ、それを止めるだけだ」
俺の名前は長谷部慎。
さて、なんでこんなことになったのか。
振り返っていこうと思う。
●
目覚めると、なんか小鳥の声がやたら大きく聞こえた。
俺の部屋の窓ガラスは分厚い。だからかなりの防音機能を果たせるはずなのだ。
そんなことはありえない———まるで外にそのまま寝転んでいるようだ。
とりあえず瞼を開けてみる。
———外だった。
———てか、全く知らない森の中だった。
なんだ?キャンプに連れてこられたのか?
いやそれならもっと何かしらの設備はあるだろう。野宿だってもうちょっと段ボールくらい敷くぞ。
しかしなんだ———寝巻きの状態でこんなとこに放り込まれるって、ドッキリの中でも性格が悪い方だぞこれ!
こういうときどうするべきなんだろう———とりあえず動くべきなのか?いやあんまり動いちゃいけないとも聞くな。
でもそもそもここはどこなんだ?警察は把握しているのか?
てかどこを見ても木々と草むら。
なんかここが日本とは思えなくなってきた。
海外か?
確かに木々から嗅いだこともないような匂いがする。もしかしたら本当にそうかもしれない。
そこで物音が聞こえる!
びっくりする。
しかし仕方ないのかもしれない!こんな野山なのだ!獣の一匹や二匹、仕方ない!
だがなんだ?足音が妙にしない気がする。
まるでゆっくり歩いているかのようだ。
そんなもんなのか?最近の獣は偉いもんだ。
———と思っていたら、なんか前方にいた。
緑色の体。そしてとんがった耳。何より醜悪な顔。そして痩せほぞっているのに膨らんでいる腹。
その手には棍棒のようなものがある。あれで獲物を撲殺するのだろうか———?
———見たらわかる。ゴブリンだ。
———てことはつまり、ここはもう俺の知ってる世界じゃないってことだ!
なんかすごく残酷な真実を突きつけられた気がする。それもダブルで。
ひとつは俺がここから帰れる可能性がゼロに等しくなったことと。
俺はこいつに対して何ができるのか?ということだ。
なんかジリジリにじりよってくる———だがしかし、ここで怯えてはいけない。こっちも立ち向かっていくべきだ。
俺もこいつも今は立派な獣なのだ———怯えて逃げ出したほうが負けだ!
なるべく手を広げて姿を大きく見せる。
するとゴブリンはだんだんと震え始めた。わかりやすい魔物だ。
だが問題は対抗策がないことだ。
震えてはいるものの、棍棒に入る力は先ほどよりも増している。どうやらかなり勇敢な個体だったらしい。
死にそうなら逃げろ!長生きして子孫を育てろ!と言いたかったが、しかし奴の瞳は何やらギラギラしていた。何言っても無駄だ。
———マジでどうするべきなんだ?
こういう異世界に来たら何かしら力がもらえると聞いたが———そんなもんもないのが現実なのか⁈
いやそうだよな!普通考えたらな!
徒手空拳でどこまでやれるだろう。一応空手の黒帯はあるが、それが実戦で通用するのかどうかはいまだにわからない。
人を殺す拳ではなく生かす拳だからね!これ重要。
ずっと間合いは同じくらい空いている。互いに怯えで膠着状態だ。
どうする———?
どう、出る———⁈
「ギイィィィィィィ!!!」
するとゴブリンが叫びながら襲いかかってくる!
「やるか!この野郎!」
俺もすかさず蹴りを繰り出す———見事に当たって相手は吹き飛ぶ!やった!
しかし残念!再び立ち上がり向かってくるゴブリン!逃げろって!
再び蹴りを喰らわせようとしたが、しかし学習できるほどの知能はあったようだ!
———避けられて、そのまんま頭を棍棒で殴られた!
「ぐおおおおおお……」
普通に痛い!
この害獣め、舐めやがって!
殴りにいこうと思ったものの、しかしこのまんま行っても相手の方がリーチがある。
てか蹴り破られたらかなり厳しいな。俺に何ができるって言うんだよ!
———再び襲いかかってくるゴブリン!不思議と笑っている!もはや勝ちを確信している!
———なんか腹立ってきたな。
そんな顔してよ!ルッキズムだ!まぁいいやこの際は!
———そのときだ。
———俺の手が何やら光り始めた。
———何?
光と言っても、どうもくすんだ色合いだ。灰色というのがわかりやすいだろう。どちらかというとこういうときは真っ白でいてほしかった。
———だがそんなことはこの際どうでもいい。
これは———俺の力なのだ!
目覚めた力なのだ!
異世界来たならやっぱり力使わないとな!
———しかしここでも問題がある。
———力は目覚めたが、しかし、これはなんだ?
何の力なんだ⁈
全くわからんぞ!
ゴブリンはビビったのか一旦退いていた。よかった。ほんとによかった。
本当に異世界来てから何も上手くいかない!!!
現時点はまだマシだとも思ったが———使ったらどうなるかもわからないのだ!
もしこれが自爆とか、催眠とかだったらどうなることやら。
自爆ならダイナミックな自殺になる。
催眠ならこいつを懐かせるとかするわけか?こいつを仲間にするのは無理だろ⁈
だが。
今ここで、これを使わないという選択肢は、結局生み出すことはできないのだ!
やるんだな!俺!今ここで!
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺は力を放つイメージで、右手を奴に向ける!
———すると、なにやら力が働いたのか、ゴブリンは向こうに向かって超スピードで飛んでいく!
そして遠くで何かが衝突する音が聞こえた。
———なんだ?この力は。
念動力?
ひとまずそうしとくか。そうしといた方が頭の中で楽に整理できる。
ゴブリンがどうなったかを見にいってみる。
やがて、真っ赤な岩を発見する。
原型を留めていない。なにかがぶつかって飛び散っているイメージだ。
凄まじいスピードが出ていたのか?
だが原理はなんだ?
念動力だけでここまでやれるのか?
何かしらの現象を再利用しているとしか思えない。ベクトル操作とか。
そしたら俺は最強の存在として異世界に召喚されたとかになるんだろうか?
だったら嬉しいけどね!ならなんで誰も近くにいないのかな!
———そうだ人だ。
異世界とわかった以上、とにかく人に会わねばならない。
最悪言葉は通じる気がする。異世界を舐めてるだけなのかもしれないけど。
とにかく説明しなくちゃいけない———通りすがりの大魔術師とかいたら助かるんだけど。
———現時点での最優先目標は決まった。
ということで俺はとりあえず北に向かって歩き始めた!前だから北ってことにした!
しかし行けども行けども森しかない!
川くらいあってもおかしくないのだが、それさえない!普通あるだろ!水が循環してんだぞ、山は!
しかしここは異世界だ。理屈の通じる世界じゃない。
とにかくフラフラと彷徨うしかなかった。
道中もちろん魔物も出てくる。
猪みたいなの、鹿みたいなの、ゴブリン。
だがしかし僕の超パワーさえあればね、こいつらなんてたいした相手じゃない!
まぁ倒すたびに吐きそうになる。
ろくな力じゃない。もう捨てたいよこの力。もっとかっこいいのがいい。
そんな現在の一番の問題は。
喉が渇いて仕方ないことだ。
こちとら朝起きてから何も飲んでいない。飲んだものといえば唾くらいだ。身体にあるものを再び取り込んでるにすぎない。
なんで俺の身体の方が循環してるんだ?自然の方がすごいはずだろ?
人間水飲まなくても三日は生きられるらしい———だが俺はそんなサバイバーでもない!
あくまで温室育ちの現代人なのだ!!!
だからもう我慢も限界。だんだんイライラしてきた。てか今までイライラしてなかったってことか?すごいな俺。
そのイライラを出てくる魔物たちにぶつける———血が飛び散る。
血をいっぺん舐めてみたが、ドブを煮詰めたみたいな味がした。これでは吐くだけだ。
あぁ神よ!!!なんで俺にこんな罰を俺にお与えになったのですか!!!
まぁ、思い当たる節はたくさんあるんですけどね。人間できる限り自分を律しないとダメだね。
でも今は我慢できねぇ!!!
水が飲みたい!本当に喉が渇くとこうなるらしい!
あの味らしい味のない、透明な液体で、腹を満たしたい!
しかし神は俺をお許しにならないようで、なにやら空は光を失っていった。
だがそれで神に降伏する俺ではない。とにかく歩く!歩く!歩く!
夜は夜で何やら別の魔物が出てるっぽいことは分かるが、とにかく力で吹っ飛ばしていくからよくわからない。
そしてそんな具合に歩き続けていると、ついに綺麗な朝日が昇ってきた!
俺寝てないの⁈
現代人には厳しすぎる!!!
そう考えるとどっと疲れが押し寄せてきた。
あぁ、神よ、私は疲れました。
このまんまゴールしてもいいよね———という気分でその場で寝転がる準備をしていたら。
———何やらドドドと、液体が流れる音が聞こえてくる!!!
もしや!と思い俺はそれを注意深く聞いて探す!探す!探す!
どうやら感覚が研ぎ澄まされているようで、みるみるそれに近づいている実感が湧く!
———やがて、森の奥から光が俺を誘う!
出口だ!
いやそんなことよりも———あの先から音は出ていた!
もう人とかどうでもいいよ!水さえ飲めたらいいよ!もう!死んでもいいぜ!
急いで走ってその光に向かう!
———木々を抜けた先は、砂利などがある河原だった。
かなり広い。
そして何より、水は透明に澄み切っている!しっかりと川底がわかる!
俺はそこに飛びつき、四つん這いになって顔を水面に沈めた!
そして勢いよくガバガバと喉を動かして身体に取り込んでいく!
———美味い!美味いぞ!身体が限界を迎えているからなのか元々美味いのかは知らないが、なんか甘い!そして香りもいい!
顔をパッと上げる!
これが生きてるということか———ありがとう誰か。俺はここにきてそれを実感できた。
そして再び水面に顔をつけようとしたところ———何か気配を感じた。
「———何?あんた」
声の先を見てみる。
———全裸の少女が、川の中で立って、俺を何やら軽蔑するように見つめていた。
髪はピンク色で、かなりの長髪だ。体付きはスレンダーで、出るべきところは出ている。スタイルはかなりいいだろう。身長もそれなりにあるように見られる。
そして何より———顔つきはそのひとつひとつが人形を思わせるようだったが———その目は、この世の全てを睨みつけるような、鋭い目だった。
いや俺がこんなんだからのような気もする。
「———ここはどこですか?」
「うちの敷地よ」
「マジっすか?死ぬかと思いました」
「———勝手に迷子にならないで頂戴」
少し呆れが入った。
許されるかもしれない!!!!!!
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