第3話 エターナル・エンジン
内臓が押し潰されるような重さに、槍で突かれるような鋭さの備わった感覚が二坂を貫く。
「ぐうっ……」
『
崩れ落ちた二坂の頭を支配していたのは、痛みや敗北感などではなく、そんな一つの疑問だった。
「何も見えないし何も聞こえなかった! 流石にビックリしたよ〜」
能力が効かなかったのではないか?という疑問を、チミーの呟きが真っ向から否定する。
「何の……能力なんだよ……」
「え〜、知りたい?」
たまらず出た二坂の疑問に、チミーは両手を腰に当てて前屈みの姿勢を取った。
口角を持ち上げてニヤニヤと覗き込みながら、自信満々に能力を明かす。
「私の能力は『
エネルギー。
物が動いたり、光ったり、音を出したり。
あらゆる物事が起こるための『働き』そのもの。
それを操るということは、すなわち『全てを操る能力』なのだ。
日付は変わり、翌日が来る。
学校内では生徒たちが、とある変化にざわめき立っていた。
「……チッ」
校内一の問題児である二坂が、席について授業を受けているのである。
彼らから向けられる遠巻きの視線を受け、二坂は不愉快そうに舌打ちを飛ばした。
先日チミーに敗れた際、彼女に「ちゃんと授業受けなよ」と命じられたのである。
座りっぱなしの授業が苦痛でサボり続けていた二坂にとって、久々の授業は精神的に疲弊するものがあった。
正午の針が回り、ようやく昼休みに入る。
「はあ~~~……」
束の間の自由が訪れ、二坂は大きなため息を吐いた。
気分が悪い。
外の空気を吸わないと、やってられない。
彼は即座に教室の扉へ手をかけ、逃れるように教室から出た。
「よっ」
「うおっ!?」
そんな彼を、チミーが待ち受けていた。
腕を組んで壁に寄りかかるその姿は、まるで二坂が出てくることを予知していたかのようである。
「待ち構えてたのかよ?」
「違うわよ。昨日も言ったじゃない? 私の能力は、エネルギーを感知することもできるって。それが原因で負けたのに、もう忘れちゃったの?」
エネルギーを操ることのできるチミーは、操る対象であるエネルギーの流れ自体を感じ取ることもできるという。
この感知能力があるおかげで、二坂に五感を消されても攻撃を避けることができたのだ。
「くそっ……」
やっと解放されたというのに、チミーが待ち構えているなんて、また嫌な気分に逆戻りだ。
そんなことを考えながら舌打ちをした二坂に、腕を組んだままのチミーは用件を言い放つ。
「昨日アンタが言ってた『炎の能力者』。誰か分かんなかったから、ちょっと案内してくれない?」
「『火を操る能力者』?」
先日。
チミーに思いっきり打ちのめされた二坂は、彼女の質問に首を傾げた。
彼の
「そ。色々あって、『火を操る能力者』を探してるの。色んな生徒と揉め事やってるアンタなら、分かるかな〜と思ってさ」
チミーの推測は正解で、二坂は『火を操る能力者』に1人だけ心当たりがあった。
その者の名を教えたのだが、この学校に詳しくないチミーには見つけることができなかったらしく、今に至るという。
「他の奴をあたれよ。俺に関わんな」
冷たく言い放ち、チミーの脇を通り過ぎようとした二坂だったが、思い切り肩を掴まれて動きを止められた。
彼女の掴む力は、万力のように強い。
「"他の奴"がいないから言ってんの……! 案内するだけでいいからさ?」
少し声を潜めながらの声色は、自身を倒したとは思えないほど侘しい様子を醸し出していた。
2人並んで廊下を歩く姿に、絶滅危惧種を見るような視線が集中する。
編入してきたばかりの謎の生徒と、学校一の問題児との組み合わせが歩いていれば、気になって仕方がないに決まっているだろう。
反射的にチミーと二坂へ道を開ける生徒たちの中で、唯一避けることなく正面から歩いてきた者がいた。
腕を上げれば天井に届くのではないかというほどの巨体を持つ、無骨な顔をした男子生徒。
短めの髪にしっかりと着こなされた学ランは、校則違反などしたことがないと言わんばかりの清潔感を放っている。
「おい。アイツが言ってた『火の能力者』だ」
二坂はチミーの背後へ隠れるように歩幅を小さくすると、小声でそう伝えた。
「でかいわね……」
「教えたからな。後は勝手にしろ」
「へっ?」
彼がチミーの探していた人物であると教えるや否や、二坂は逃げるようにその場を後にする。
突然いなくなった二坂に慌てて振り返ったチミーを、大きな影が覆い尽くした。
前へ向き直ると、先の男子生徒が目の前で仁王立ちをしている。
「先日編入してきた、染口 チミーだな。二坂とつるんでいるとか、妙な噂を聞く」
不審物を見るような目で見下ろしながら、男子生徒はチミーの名を口にした。
その威圧感に、チミーは思わず薄ら笑いを浮かべてしまう。
「そういうあなたは……風紀委員の
「……俺を?」
彼女の言葉を聞いて、南と呼ばれた男子生徒は首を傾げた。
その疑問を察するように、チミーが頷く。
「そう。『火を操る能力者』なんでしょ?」
「確かに俺の能力は、火を操るものだが……」
正直に答えた南は、それを証明するように手のひらへ小さな火を灯してみせた。
その瞬間。
「ッ!?」
チミーが南の腹部へ、強烈な拳を叩き込む。
貫くような激痛を伴って、南の体は後方へ吹き飛んでいった。
十数メートルの距離を飛び、床へ背中を打ち付ける。
突然の出来事に、周囲からざわめきが起こった。
「っ……」
殴り飛ばした張本人であるチミーは、腕を振り切った状態から動かない。
彼女はゴーグルを着けていても分かるほど、動揺した表情を浮かべていた。
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