『トリスタンとイズー物語』【★★★】

大好きな作家さんが小説のモチーフにした、というオススメの物語という事もあって、以前から読みたく思っていた一作。

ケルト神話を少しかじってた時も、この名前がちょくちょく出てきました。

主人公トリスタンは、かの有名な『アーサー王伝説』の円卓の騎士の一人でもあります。

でも、騎士物語よりも悲恋物語としての方が有名。

大まかなあらすじを説明しますと……


生まれた時から、父も母もなく、悲しみに包まれて生まれてきた、トリスタン(悲しみの子)。

立派に成長した彼は、因果あって、コーンウォールの国王マルクに仕えることになる。

実は、マルク王とトリスタンは、伯父と甥の関係でもあった。

二人は互いに、堅い信愛の絆で結ばれていた。

しかし、トリスタンがマルク王が后にと望んだ、アイルランドの姫君“黄金の髪のイズー”を連れて戻る時、悲劇は起こった。

二人は、コーンウォールへと向かう船の上で、媚薬を飲んでしまう。

それは、イズーの母君が娘とマルク王に飲ませるようにと、侍女に渡しておいたもの。


「これを一緒に飲んだ者は、身も心も一つになって、生きている間も、死んでの後も、永遠に愛し合って離れぬ」


という、死の媚薬だったのだ。

イズーは、自分の伯父モルオルトを殺した憎きトリスタンを(トリスタンは、コーンウォールを守るために彼を殺せざるをえなかったのだが)、

トリスタンは、愛する伯父の后となる筈のイズーを愛してしまう。

こうして、最終的には、二人の死へと物語は進んでいく……。



読み始めてすぐに、のめり込んでしまいました。

淡々として展開の速い文章が逆に感情を高ぶらせてくれます。

私が読んだのは、岩波書店から出ているもので、ところどころに語り部の感情が挿入されているのが、またいい。

トリスタンを愛し、信頼していた筈のマルク王が、イズーとトリスタンの関係を知り、二人を処刑しようとするくだりは、辛い。

他にもいろいろな苦難を乗り越える二人。

それでも、最後は、たった一人の女の言葉でトリスタンは死に、それを知ったイズーも死んでしまう。

あまりにもあっけない最後に涙がほろり。

二人は、死の間際に一目でも会う事が叶わなかったのだから……。


二人の亡骸は、マルク王の気遣いによって、隣り合わせの墓に納められます。

すると不思議なことに、トリスタンの墓から一本のバラが生え、イズーの墓の中に伸びていく。

それは何度切っても翌日には伸びてしまうので、マルク王は、それの枝を二度と断ち切ることを禁じたという。


綺麗で、それでいて醜く、儚く切ない恋の物語でした。

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