第1話②
そいつは、何かを言いたそうにしているくせに、喋りかける勇気がないのか、喉元に手をやって僕と目を合わせないようにしていた。その態度にムカつき、僕はじろりと睨む。
だが、失敗に終わったようだ。その女は動じなかった。一体なんだよ? 舌打ちをし、画面がつきっぱなしのスマホを見て、何なのかわかった。
――もしかして、こいつ、僕の画面を見たのか? 僕はもう一度舌打ちをして、急いでスマホを取って画面を消した。
でもその女は、それでも何か言いたげにその場に留まっていた。どうしたらわからず、戸惑っているようだ。
僕は一向に去ろうとしないそいつを無言で観察した。そいつは、なんだかすごく、大きかった。制服はパンパンで、今にもはちきれそうだった。真っ黒な長い髪は分厚く、ところどころで縮れて額やその横に垂れて、丸っこい顔全体の輪郭を隠していた。
それからさっきから僕を見ている、不自然に引きつった顔が特に気になった。その中で赤い眼鏡だけが異様に浮いていた。
僕は、そいつの名が、有島というのを思い出した。新しいクラスになった時に、早口で自分の好きなキャラクターの名前を言っていた女だった。
でも、有島の下の名前は正直覚えていない。その名前を思い出そうとしている間に、有島は何か言いたげな表情を残したまま去っていった。いったい何だったんだ?
わからない。けど、やっぱり、チャットの画面を見て、僕がAIと喋っていることに気付いたと見るのが妥当だろう。
「あいつも、チャットに『友達を作るのにはどうしたらいいですか?』とか聞いてんのかな」
僕はふと、そんなことを思った。
それから、時が過ぎ、いつの間にか、チャットのことは話題に上がらなくなった。周りの人間たちは、もうそんなことどうでもいいかのように、受験のための勉強にいそしんでいた。
僕も別に、チャットを使って何かができるわけじゃないと気付いてから、触らなくなっていた。
でも、なんだか、あれ以来、どうも、見間違いでなければ、僕は、有島のことをよく見かけるようになったのだ。
それまでまったく有島のことなんて気にもかけていなかったのに、なんだか急に運命の糸がよじれたみたいに、あいつのことを学校や、それ以外の場所でも見かけるようになった。それもただ見かけるだけじゃない。有島は僕が見かけるたび、奇妙なことを繰り返していた。
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