第3話
次の日、僕はいつもと変わらずに起きた。そして、変わらず学校に向かった。そのまま退屈な一週間が過ぎた。あの時の興奮を、嘘だったと思いながら過ごしていた。
でも、頭の中は、VR世界や、その魅力を語っていた〝ANNE〟で埋め尽くされていた。それだけじゃなく、僕は毎日毎日予定通りに進む学校生活に我慢ができなくなって、〝ANNE〟がいる、〝オブスキュラ〟に行きたくなった。
だが〝ANNE〟も言っていたように〝オブスキュラ〟に行くためには、専用の機材が必要だった。それは主に、高性能なパソコンと、この腐った世界を覆うためのVRゴーグルだ。
でも、高校生である僕に、そんなものを買える財力はなかった。所持金は二千五百円。家にあるパソコンは五年前のラップトップだし、ゴーグルと言えば、しばらく使っていない黒い水泳ゴーグルしかない。どう考えてもそれじゃ〝オブスキュラ〟には行けそうもない。
バイトをすることも考えたが、よく考えたら、学校から禁止されていた。それにどうにかしてゴーグルとパソコンを手に入れたとして、母さんのいるあの家で出来るとは思えなかった。
それから、最後に僕はこう思った。「すでに両方を持っている人と、友達になる」だがそれを思った途端、自分でも笑ってしまった。そんなことができるなら、そもそも苦労なんてしてないだろ。
こうして、僕は一旦はオブスキュラに行くことを諦めた。でも、ある日の昼休み、偶然、その単語をクラスで耳にしたのだ。
「だからさ、ついにこの間手に入れたんだよ! 新しいVRゴーグル! これで〝オブスキュラ〟に行けるぞ」
慌てて声の元を探る。そう声を弾ませながら言っていたのは、短髪で細身の、気弱そうな男だった。色白で、どこか病的にも見える。名前を思い出せないでいると、横で聞いていたもう一人の似たようなのっぽの男が言った。
「マジ? でも、あれって高いんじゃないの? 買ったのかよ?」
「まさか。兄貴が買ったんだよ。ほら、今カードの値段が高騰してるだろ? 兄貴がたまたまレアカードを当ててさ。臨時収入が入ったんだよ。二十万だよ、二十万」
「へえ、そりゃすごいな」
「ああ。兄貴なんてさ、『これでクソみたいな現実世界なんかとはおさらばだ』とか言ってさ、ずっとそこに引きこもるつもりみたいに言ってさ」
そう言うと短髪の男は楽しそうに笑った。僕はそこまで聞いて帰るつもりだった。これ以上ない機会だとも思ったが、二人の間に割って入ってまで、VRゴーグルを貸せ、なんて言う気にはならなかったからだ。だが、結局その後に聞こえてきた言葉で、似たようなことを言う羽目になった。
「じゃあお前は使えないじゃないか」
のっぽの方が聞いた。短髪はその言葉を待ってましたとばかりに、にやけ顔で否定する。
「いやいやいや。そもそもな、ゴーグルは二つあるんだ」そして続けた。
「それにさ、兄貴も不運でさ、その後、運の揺り戻しにあったのか、事故って足を折っちゃったんだよ。今は、病院にいる。しばらくはそのままだろうな。どう? お前もやってみない?」
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